透明な海~恋と夕焼けと~
☆季side☆
僕の母親が亡くなったのは、僕が1歳に満たない時だった。
元々体の弱かった母さんは、僕を本当に命がけで産んで、亡くなった。
母さんは未婚だった。
だから暫く、僕は病院に留まっていた。
母さんの携帯電話に履歴は何も残されていなくて、僕の父親について何も語らず、母さんは死んだ。
僕は父親を警察に探してもらっている間、病院の院長に育てられた。
ただ、僕の名字は母さんの名字であった仁科。
院長の子どもでは、決してなかった。
院長には愛してやまない息子がいた。
心から息子を愛していた院長と、思い切り愛情を注がれる息子。
僕はその息子が羨ましくて、しょうがなかった。
引き取ったけど、所詮僕は居候の身。
だから家ではずっと、何もすることがなく、ただ膝を抱えて存在を消すしかなかった。
そんな僕を、院長の奥さんが少しは心配してくれた。
そして僕に、鉛筆と色鉛筆、画用紙をくれた。
僕は無我夢中で絵を描いた。
決して仲良くはなかったけど、奥さんがくれたもの。
僕は大事に使い、何より絵を描くのが好きになっていた。