透明な海~恋と夕焼けと~
そして中学に入ると、僕は誰よりも笑うようになった。
蹴られても殴られても、何かが盗まれても、院長と奥さんに罵られても。
必ず笑うようにした。
これで、僕は大丈夫だと信じ続けた。
笑い続ければ良い。
そうしたら、僕は必ず報われる。
それを、信じてやまなかった。
同級生に何かされるたび。
僕は家を飛び出し、絵を描きに出かけた。
世間体を気にする奥さんがくれる数少ないお小遣いを貯め、スケッチブックや色鉛筆を買い、僕は出掛けた。
絵を描くだけが、僕の幸せだから。
高校は、わざわざ遠い場所を選んだ。
1番近い高校は、院長の息子が通うから。
会いたくないから、僕は遠くの高校を選んだ。
その高校で、僕は迷わず美術部に入った。
中学の時美術部はあったけど、帰りは必ず息子の荷物持ちだったから。
部活入る暇なんてなかった。
でも、これから僕は何もされない。
小学校中学校と学んだ笑顔で、僕は友達を手にした。
絵を描くことを馬鹿にされたけど、僕は曲げなかった。
別に良い、独りになっても。
絵さえ描ければ、僕は満足だから。