透明な海~恋と夕焼けと~
季はあたしから離れ、基樹の所へ行った。
そして基樹の胸ぐらを、思い切り掴んだ。
「季っ!」
季は背が高い方で、基樹を少しだけ宙に浮かせた。
…季が、怒っている。
温厚な人を怒らせると怖いと言うけど、季はその典型だ。
「何で美音のこと振ったんだよ、お前」
「……俺、わからなくなったんだ」
「は?」
「美音が本当に俺のこと好きなのか。
俺は好きだけど、美音は俺のこと好きなのか。
美音って一切俺に好きだとか言わねーんだぜ?」
基樹……。
「でも、もう良いんだ」
「何がだよ」
「俺だったら、美音を兄貴みたいに幸せにすることなんて出来なかった。
兄貴みたいに、美音を一途に愛せる自信が、俺にはまだないんだ」
「…………」
「だから俺は、美音と別れた。
美音のことは今でも好きだけど、美音を幸せにできるのは兄貴だけだ。
だから美音のこと泣かせたら、許さねーからな?」
基樹はふっと笑った。
あたしの大好きだった、基樹の笑顔―――。
我ながら酷い言い方だとは思うけど。
前よりもときめかなくなった。
基樹より、季が好きだと気が付いただろうか……?