透明な海~恋と夕焼けと~
「ねぇ、季の一人称って何なの?」
「ん?
あー…僕、じゃない?
僕、僕って言うこと多いからさ」
「じゃあ何でさっき俺って言ったの?」
「美音のこと、好きだからじゃない?」
またこの天然はサラッと赤面間違いなしの台詞を堂々と―――!
「僕、他人と付き合うの苦手だからさ…。
彼女いたって話もしたけど、本当何も言えなくて。
手とか繋げないし、キスなんてもってのほか。
色が見えなくなってからは、家に引きこもっていたからねー」
頭の後ろに手を組んで、季は話し始める。
「子どもの頃から人付き合いなんてしたことないし?
ずっと存在がバレないように生きてきたから、話すこともなくて。
暫くしたら、本当の僕の一人称って何だろうって思い始めて。
一時期は自分のこと“わたし”とか言っていたし」
何てことのない一人称。
それにこんな過去が隠されていたなんて…。
「だから、本当に付き合い始めたのも話し始めたのも、美音が初めて。
美音に出会ってからは夜出歩くこともなくなったし、医者から処方されていた薬も手放すようになったからね。
僕、美音に出会えて、本当に良かった」
季はあたしを見て、笑った。
「あ…………」