こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
「…ごめんね…、つかさ、ごめんね…」
何度も何度も謝りながら俺の頭を撫で、
「元気でね…」
とだけ言い残して去っていった。
「かあさん!かあさん!行かないでよ、かあさん!」
いくら泣き叫んでも決して振り向いてはくれない背中。
妹の椿は母親に手を引かれながら俺のほうを見て静かに涙を流していた。
「なんで俺だけ置いていくんだよ…」
あんなに必死になって守ろうとしたのに…、守れなかった。
そして俺の心にあったのは、
“裏切られた”
という絶望だけ。
だというのに…。
その元凶である親父はずっと変わることなく今日も酒を片手に煙草を吸っている。
俺はその能天気さが許せなかった。
お前のせいだ…。
お前のせいで椿と母さんは出ていった。
お前が家族を壊したんだ。
なのになぜそんなに悠長に構えていられる?
所詮どうでもいいってか。
…ざけんな。
俺の中で何かが切れた。
ズンズンと親父のところまでいくと、酒を奪い取り、窓の外におもいっきり投げた。
「ああ゛!?てめぇ、なにしてくれてんだ!」
いきおいよく立ち上がった父親が俺の胸ぐらを掴んだ。
「…ざっけんじゃねぇぞ!!」
しかしそんなことでは俺は止まらなかった。
「てめぇのせいじゃねぇか!なに呑気に酒なんか飲んでんだよ!母さんも椿も出ていっちまったんだぞ!?それでも父親かよ!?」
いきおいよくしゃべり過ぎて肩で息をしている息子に対して実の父親が発した言葉はあまりにも残酷だった。
「だから、なんだよ…」
「………あ?」
「だからなんだっつってんだよ。俺には関係ねぇし。それによぉ、あいつらはお前に愛想つかしたんじゃねぇのか?現にお前だけおいてけぼりじゃねぇか!ギャハハハ!」
「…なんだよ、それ」
卑下た笑い声を上げるそいつ。
もう父親だとも思いたくなかった。