こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
「あ゛?」
思わず俺は反応してしまった。
「お腹、空いた」
みるとこの世の者とは思わないほど浮き世離れした女が立っていた。
しばらく見とれていたが、ハッとして女を睨みつけると、
「消えろ」
と低く殺気を放って一言言い捨てた。
大抵の奴はこの睨みで逃げていく。
どうせこの女もそうだろうとしばらく睨みつけていてもいっこうに立ち去る気配がない。
それどころか、女は無表情で近づいてくる。
…ちょっ、おいおいまじかよ。
「……来んじゃねぇよ。ぶっ殺されてぇのか」
最大級の睨みを利かせ女を威嚇するもそんなの意に介さず、ついにベンチの前に立った。
「できるの?」
「……は?」
「やってみてよ」
俺はムカついて女だってことも忘れて本気で殴りかかった。
パシッ
「……は?」
なんと女は俺の拳を片手でいとも簡単に掴んだのだ。
俺の拳が入らなかったのは初めてだったし、ましてや女に防がれたことなど経験がなかった。
何者だ…。こいつ。
「ふ~ん」
と値踏みするように観察すると徐に
「お前、名前は?」
と聞いてきた。
「答える義理なんかねぇ」
と低く唸るように言うと
「そう」
としか言わず、黙り込んでしまった。