こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
そして本当に10秒後。
「見つけたわ……ななのばか」
神出鬼没にも程があるというくらい全く気配を悟らせずに背後に見知らぬ女が立っていた。
藍色の長い髪を両サイドの赤いリボンで内巻き縦ロールに結んでいる。
陶器のような透き通った肌に赤い瞳、血に濡れたような紅色の唇、人形のように動かない表情。
ニーソックスにフリフリのミニスカート、同じくフリフリの日傘をさしている黒のゴシックロリータファッションの服装だけならメルヘンな少女。
自分と同じ格好のテディベアを抱き締め、一見すると愛くるしい出で立ちなのに、女が醸し出す冷たいオーラは何故か『死』を連想させた。
切れ長の鋭い瞳がクールな印象を与え、一瞬で空気が凍ったようだ。
「あ、来た」
「いい加減にしなさいよ、なな。毎回毎回道に迷って…。今度からは首輪でもつけとこうかしら?」
「……以後、気を付けます……」
「それ言うの何回目かしら?」
そろそろ本気で対策考えなければとぶつぶつ呟きながら女は俺の方を向く。
見つめられた瞬間に言い知れぬ恐怖を感じた。
死にたい死にたいあれ?なんで死にたいんだっけともかくも死んだら楽になれるんじゃないかそうだ楽になれるんだもう暴力を振るわれることも裏切られることもなくなる大丈夫痛いのは一瞬すぐに楽になれるというかそもそも痛いハズがないだって生きている間に痛みなんか“感じない”んだから──────。
「はい、ストップ」
「……っ!」
なんだ?今俺何考えていた……?
「まだゆかに慣れてないんだからダメ」
「不可抗力よ」
そうして俺の目を覗き込んだななは感情の籠らない瞳でじっと見つめた後。
「ゆかの目を見ちゃダメ」
的確なアドバイスをしてきた。
「ゆかはサングラスでもかけてろ」
「あら酷い。初対面の人を警戒するのは至極当然のことでしょう。しかもななが連れてきたとあっては尚更」
「……今のって」
「ゆかは相手の目を見ることで精神に干渉する催眠術をかけることができるの。大体初対面の人は皆餌食になる。リアルメデューサ」
ななの説明にメルヘンチックな女は。
「まぁ、当たらずとも遠からずってとこかしらねぇ」
飄々と言ってのけた。