こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
育児に嫌気が差してきた両親は俺を育児放棄するようになった。
そしてその日は唐突に訪れた。
ある日ふらりと帰ってきた母親は、俺を見てこう言った。
『繁華街に行ってらっしゃい』
どうして?
と聞くと、
『そこで貴方を待っている人がいるわ。いい?その人についていくのよ。二度と帰ってこないで』
なにがなんだかわからないうちに家を追い出されて、お金も荷物も持っていない俺は繁華街に行くしかなかった。
「ねぇ、君が鬼灯(ほおずき)きらくん?」
媚びを売るような甘ったるい声に振り向けば化粧がケバくて香水臭い女数名。
「……なに」
嫌悪感を隠しもせずに少し距離をとって聞くと、女達は狂ったように笑いだした。
「キャハハハハ!お母さんから何も聞かせられてないかなぁ?私達、お母さんと同業者なんだけどぉ、頼まれてさぁ?君、小4なんだってぇ?」
俺を艶かしい値踏みするような目で全身くまなく見られて吐き気がする。
「ま、君顔がいいから大丈夫っしょ!まず最初はお姉さんからかなぁ?」
なにを言ってるんだ…こいつ?
意味がわからなくて考えてるといつの間にか見知らぬ女達が群がってきて、腕を絡めてきたり、身体を密着してきたり、胸を押し付けてきたり…。
女達が向かっている先はどう見てもホテル街。
「おい!離せよ」
「まぁまぁ、安心して。ちゃんと代金は払うから」
安心なんかしていられるわけないだろ。
『代金』と言う言葉を聞いて、その頃になってようやく“俺は母親に売られたんだ”という現実が理解できてきた。
逃げたかったけど逃げれなくて。
逃げても帰るところなんかないし、野宿なんかしてたらこの寒い中、凍死しちまうし。
結局俺はなすがままにされるしかなかった。