こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
その光景を一つ年下の妹、桜は黙って見ていた。
今まで泣きじゃくっていたのが嘘のような静けさ。
お気に入りの熊のぬいぐるみをぎゅっと抱き締め、両親が兄に殺されていく様を傍観していた。
理解出来なかったのだろう。
やがて桜の元まで浸透してきた血で遊び始めた。
びちゃびちゃとさながら水遊びのように。
足をばたつかせ、手で血を触ったり文字を描いたりしながら。
しばらく続けるうちに楽しくなってきたのかキャッキャッとはしゃいでいた。
その頃には粗方こっちも“解体作業”が終わり、一段落ついたところだった。
桜を抱き上げ、頭を撫でる。
「俺達に親はいない。最初から居なかった。家族は三人だけだ」
記憶に捩じ込むように繰り返し聞かせた。
「“これ”は親じゃない。知らない人──取るに足らない人間(害悪)だ。だから、桜は何も見ていない。何も聞いていない。何も知らない。いいね?」
桜を撫でる手が血だらけなのに気付き、撫でるのを止める。
「大丈夫。何があっても、俺達はずっと一緒だ」
それでも繰り返す口は止まらなかった。
三歳なのに大人びすぎている自分。
三歳で人を殺す楽しみを見出だした空。
殺害現場を見ても動じなかった桜。
俺達は産まれてくる世界を間違えてしまった。
そういうモノは得てして“化け物”と言われるのだ。