こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから
こうする以外に他に方法がなかった



『ながれは大人しくていい子ねぇ』

何度も言われた。

だからそうであるようにし、誉められるために言うことを聞いた。

母親が親戚の家に行く時も同伴し、『ながれはななちゃんと遊んでいてね。大人の話し合いがあるから』と言われれば同い年の従姉の部屋で何時間でも待った。

ななは元から身体が弱く、寝たきりで本を読んでいるか、パズルを黙々と進めている姿しか見たことはない。

だから俺はななが横になっている時は起こさないようにそっとパズルで遊び、逆にパズルをしているときにはのめり込んだら集中力が半端ないので話しかけても無駄だと判断し、静かに本を読んで過ごす。

もともと無関心なななと口下手な俺では会話が成り立つことは無く、俺が入ってきても拒みはしないが、興味を示さない。

唯一交わす会話が帰る時俺が『ばいばい』と言ってななが興味無さそうに『うん』と言う時だけ。

それも気が向いた時にしか話してくれないし、目を合わせること無く別れる。

それだけの関係性だった。ななとは。


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