こうするしか生きていく術(すべ)がなかったから


俺の母親はななの母親の妹だった。

水崎本家程じゃないけど、『如月財閥』として会社を経営し、そこそこ裕福な家庭に育った。

『如月財閥』の御曹司に相応しく礼儀や作法、マナーなど徹底的に英才教育を施され、ゆくゆくはエリートになるようにと将来を約束され育てられてきた。

しかし、俺の母親とななの母親は姉妹仲が悪く、良く言い争う声が聞こえたモノだ。

『ながれは親戚一同の中でも一番ななに良く似ているわ』

『………』

『どうかしら。ながれをななと共に組織に入れてみては?』

『お姉様!だからそれは断っているでしょう?ながれは普通の子です。あんな化け物と一緒にされては困ります』

『……化け物とはななのことかしら?』

『当然でしょう?人間離れした異彩を放つあんな気持ちの悪い子と確かに人見知りで浮いてはいますが別段可笑しな兆候を見せないながれが似ているですって?冗談はお止めください』

『あなたはながれの本質が見えていないのよ。恐らくながれはなな寄りの人種ね。生まれつき人殺しの才能があるわ。現にながれは戦闘狂でしょう?』

『いい加減にしてくださる!?母親が息子の本質を見抜けていないハズがないでしょう!?そんなことばかり言うのでしたら帰りますわ!お姉様もあの化け物に感化されて頭がイカれたのではないこと?』

話の内容は理解出来なかったけど、自分のことで母親が怒鳴っていることは容易に察せた。

こういうケンカをする度に決まって母親は俺を抱き締め涙ながらに語ったモノだ。

『あなたは私の子よ……。何処にも行かせない……。母様が守ってさしあげますからね……』

しかし、その思いも虚しく、俺は程なくして“組織”に入ることになった。

きっかけは従姉のななが“組織”に入ったこと。

それならばとトントン拍子で進められた。

お別れの際、真っ赤に泣き晴らした目をして俺と視線を合わせようともしなかった母親の姿が脳裏に焼き付く。

父親に肩を支えられながら今にも崩れてしまいそうな。

『…達者でな』

父親はなんとか笑顔を保とうと必死だったけど、母親は最後まで俺の顔を見ることはなかった。


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