続 音の生まれる場所(上)
噛み合わない気持ち
カズ君と付き合いだした頃は、丁度、梅雨に入りかけたばかりで、雨続きの毎日だった。アウトドアの好きな彼は、映画やショッピングなんかには興味がなくて、雨の日デートもいつも屋内のスポーツ施設が主だった。
「真由子も打ってみろよ」
バッティングセンターで、高校以来のバットを手渡されて躊躇した。時速70Km(小学生低学年向き)と書かれたミニベースの中に立ち、ドキドキしながらボールを待つ。
シュッ!
考えてた以上に速いスピードで責めてくるボールに身体を避けた。
「ひっ…!」
「何やってんだよ!バット振らなきゃ当たんねーだろ!ボールよく見て!ほら、すぐ次来るぞ!」
硝子越しに聞こえるカズ君の声に振り返る余裕はなく、とにかく言われるまま、バットを振り回した。
ポコン…!
バットの先にボールが当たった感触があった。
「いいぞ!今の感じ忘れんな!」
弾むような声がした。気持ちが軽くなって、しっかりとボールの出てくる場所が見れた。
キンッ!
バットの中心にボールが当たった。真っ直ぐではなかったけど、前に飛んでった。
ポカン…としてる私に、カズ君の声が届く。
「その調子!もう一度!」
声に励まされ、何も考えずにバットを振り続けた。二十球中、半分くらいが前に飛んでいった。
「スゲーよ真由子!やったじゃん!」
ボールが出なくなると、カズ君は中に入って来て、髪の毛をクシャクシャして撫でた。
「お前上手いよ!大したもん!」
満面の笑みを向けてくれるカズ君に、気持ちが綻んでいく。彼となら、笑っていける…と思った…。
それから二人で、いろんな所へデートに行った。日頃、滅多に身体を動かさない私にとって、カズ君とのデートはいい気分転換になった。ボウリングにしても、テニスにしても、キャッチボールにしても、上手くできるとカズ君は手放しで褒めてくれる。だから私も、嫌がらずにスポーツが楽しめた。
彼と初めてキスをしたのは、草野球チームの試合観戦の帰り。地区のリーグ戦で一勝もできずに敗退してしまったカズ君は、少し落ち込んでいた。
「元気出してよカズ君…また次頑張ればいいじゃない!」
負けても誰も悔しそうじゃなかった。カズ君だけが、悔しそうな顔をしていた…。
「大丈夫!次は勝てるよ!」
保証もないのにそう言った。その言葉に反応するかのように、彼が私の腕を引っ張った。
「…次は必ず勝つから、力をくれよ…」
「ど…どうやって…?」
近づく顔にドキドキしながら聞いた。カズ君の唇が近くに来て、ぎゅっと目を瞑った。
「こうやって…」
軽く触れた息に、背中がゾクッとする。離れていく間もなく、唇が押し付けられて、熱くキスされた。
握られた腕に込もる力。戸惑いと混乱の中で受けたキスは、いつまでも心の中に居心地悪く残った…。
カズ君のことは嫌いじゃなかった。彼といると落ち着くし、楽しいし、何より笑い合える。一人じゃないと思えるし、二人でいると嬉しいことも多かった。
だからホントは、こんな居心地の悪さなんて、感じる方が変だと思うのに…。
彼の腕の中にいると、どうにも妙な感じがした。恋人とか彼氏というより、肉親に近い感じがして、どうにも解せない気分だった。
噛み合わない気持ちを抱えたまま、身体がゆっくり離れていく。それをすごく、ホッとしていた……。
「真由子も打ってみろよ」
バッティングセンターで、高校以来のバットを手渡されて躊躇した。時速70Km(小学生低学年向き)と書かれたミニベースの中に立ち、ドキドキしながらボールを待つ。
シュッ!
考えてた以上に速いスピードで責めてくるボールに身体を避けた。
「ひっ…!」
「何やってんだよ!バット振らなきゃ当たんねーだろ!ボールよく見て!ほら、すぐ次来るぞ!」
硝子越しに聞こえるカズ君の声に振り返る余裕はなく、とにかく言われるまま、バットを振り回した。
ポコン…!
バットの先にボールが当たった感触があった。
「いいぞ!今の感じ忘れんな!」
弾むような声がした。気持ちが軽くなって、しっかりとボールの出てくる場所が見れた。
キンッ!
バットの中心にボールが当たった。真っ直ぐではなかったけど、前に飛んでった。
ポカン…としてる私に、カズ君の声が届く。
「その調子!もう一度!」
声に励まされ、何も考えずにバットを振り続けた。二十球中、半分くらいが前に飛んでいった。
「スゲーよ真由子!やったじゃん!」
ボールが出なくなると、カズ君は中に入って来て、髪の毛をクシャクシャして撫でた。
「お前上手いよ!大したもん!」
満面の笑みを向けてくれるカズ君に、気持ちが綻んでいく。彼となら、笑っていける…と思った…。
それから二人で、いろんな所へデートに行った。日頃、滅多に身体を動かさない私にとって、カズ君とのデートはいい気分転換になった。ボウリングにしても、テニスにしても、キャッチボールにしても、上手くできるとカズ君は手放しで褒めてくれる。だから私も、嫌がらずにスポーツが楽しめた。
彼と初めてキスをしたのは、草野球チームの試合観戦の帰り。地区のリーグ戦で一勝もできずに敗退してしまったカズ君は、少し落ち込んでいた。
「元気出してよカズ君…また次頑張ればいいじゃない!」
負けても誰も悔しそうじゃなかった。カズ君だけが、悔しそうな顔をしていた…。
「大丈夫!次は勝てるよ!」
保証もないのにそう言った。その言葉に反応するかのように、彼が私の腕を引っ張った。
「…次は必ず勝つから、力をくれよ…」
「ど…どうやって…?」
近づく顔にドキドキしながら聞いた。カズ君の唇が近くに来て、ぎゅっと目を瞑った。
「こうやって…」
軽く触れた息に、背中がゾクッとする。離れていく間もなく、唇が押し付けられて、熱くキスされた。
握られた腕に込もる力。戸惑いと混乱の中で受けたキスは、いつまでも心の中に居心地悪く残った…。
カズ君のことは嫌いじゃなかった。彼といると落ち着くし、楽しいし、何より笑い合える。一人じゃないと思えるし、二人でいると嬉しいことも多かった。
だからホントは、こんな居心地の悪さなんて、感じる方が変だと思うのに…。
彼の腕の中にいると、どうにも妙な感じがした。恋人とか彼氏というより、肉親に近い感じがして、どうにも解せない気分だった。
噛み合わない気持ちを抱えたまま、身体がゆっくり離れていく。それをすごく、ホッとしていた……。