続 音の生まれる場所(上)
三年前の今日、彼が旅立ってしまったことを夏芽は知ってる。私がしばらく落ち込んでたことも、彼を…好きでいたことも…。
「さぁ…どうしてるだろう…」
曇った空を見上げる。淀んだ空の向こうにいる、あの人の顔を少しだけ思い浮かべた。
「…坂本さんのことだから…きっと、ペット作ってるような気がする…」
楽団の指揮者で、楽器作りの師匠でもある水野晴臣先生の工房に寝泊まりしてまでやってたトランペット作り。
私は何も知らなかったけど、それは工房の仕事以外にもバイトをしてて、夜中にしか楽器作りが出来なかったからだ。
「作るのも、上手くなったろうね…」
ナツの言葉に頷く。
「うん…きっとそうだと思う…」
あくまでも、想像でしかない。彼がドイツの楽器工房で、今も楽器作りをしてるのなら…の話。
ホントはもう、何を信じていいのか分からずにいる。
「忘れないよ…」と言ってくれた言葉すら、ホントかなって気がしてるーーー。
「…あっ!来たよ!二人‼︎ おーい!」
手を振り回して夏芽が合図を送る。グレーのコートとカーキ色のジャンパー着た二人が走って来る。
同級生勢揃い。…と言っても、四人だけど。
「あんた達、来るの遅いよ!女子二人を待たせて!バツとしてランチ奢りね!」
勝手に決めつける夏芽に、ハルが言い返す。
「なんだよ、お前らが勝手に早く来てたからだろ!ほら見ろ!丁度じゃねーか!」
袖をめくって時計を指差す。言い合いが始まる。それを宥めるのがシンヤの役目。
「まあまあ。ここで立ち話もなんだから、後にしようよ。この後、練習もあるし先に食べよう!」
お腹空いた…って呟くシンヤ。仲間の中で一番の食いしん坊だった。皆より頭一つ分高い身長。落ち着いたシンヤの声に二人とも仕方なく言い合いをやめた。
「じゃあ行こう。私、ネットでいいお店調べたの!」
情報見せながら歩き出す。この中に、朔がいない事が当たり前になって十年。早いものだ。
「真由、『朝の気分』練習してるの?」
ランチを食べに来たカフェで夏芽が聞く。先週決まった春の定演で演奏するオープニング曲。そのソロを自分が務めることになり、私は重責を感じていた。
「時々ね。家ではあんまりできないから、会社の屋上でやってる。でも、寒くてさ…」
10分がいい所。寒いからすぐに指が動かなくなる。
「それにあの曲、肺活量いるし、息が続かなくて…」
いろいろ言い訳。やりたくないから。
「でも、好きなんだよな?あの曲」
ハルの言葉にチラッとそっち見る。
「人に楽譜頼むくらい吹きたがってた曲だしね」
シンヤも笑う。
思い出すのは二十五歳の誕生日。気落ちしてた私を慰めようと、三人がパーティーを開いてくれた。
「さぁ…どうしてるだろう…」
曇った空を見上げる。淀んだ空の向こうにいる、あの人の顔を少しだけ思い浮かべた。
「…坂本さんのことだから…きっと、ペット作ってるような気がする…」
楽団の指揮者で、楽器作りの師匠でもある水野晴臣先生の工房に寝泊まりしてまでやってたトランペット作り。
私は何も知らなかったけど、それは工房の仕事以外にもバイトをしてて、夜中にしか楽器作りが出来なかったからだ。
「作るのも、上手くなったろうね…」
ナツの言葉に頷く。
「うん…きっとそうだと思う…」
あくまでも、想像でしかない。彼がドイツの楽器工房で、今も楽器作りをしてるのなら…の話。
ホントはもう、何を信じていいのか分からずにいる。
「忘れないよ…」と言ってくれた言葉すら、ホントかなって気がしてるーーー。
「…あっ!来たよ!二人‼︎ おーい!」
手を振り回して夏芽が合図を送る。グレーのコートとカーキ色のジャンパー着た二人が走って来る。
同級生勢揃い。…と言っても、四人だけど。
「あんた達、来るの遅いよ!女子二人を待たせて!バツとしてランチ奢りね!」
勝手に決めつける夏芽に、ハルが言い返す。
「なんだよ、お前らが勝手に早く来てたからだろ!ほら見ろ!丁度じゃねーか!」
袖をめくって時計を指差す。言い合いが始まる。それを宥めるのがシンヤの役目。
「まあまあ。ここで立ち話もなんだから、後にしようよ。この後、練習もあるし先に食べよう!」
お腹空いた…って呟くシンヤ。仲間の中で一番の食いしん坊だった。皆より頭一つ分高い身長。落ち着いたシンヤの声に二人とも仕方なく言い合いをやめた。
「じゃあ行こう。私、ネットでいいお店調べたの!」
情報見せながら歩き出す。この中に、朔がいない事が当たり前になって十年。早いものだ。
「真由、『朝の気分』練習してるの?」
ランチを食べに来たカフェで夏芽が聞く。先週決まった春の定演で演奏するオープニング曲。そのソロを自分が務めることになり、私は重責を感じていた。
「時々ね。家ではあんまりできないから、会社の屋上でやってる。でも、寒くてさ…」
10分がいい所。寒いからすぐに指が動かなくなる。
「それにあの曲、肺活量いるし、息が続かなくて…」
いろいろ言い訳。やりたくないから。
「でも、好きなんだよな?あの曲」
ハルの言葉にチラッとそっち見る。
「人に楽譜頼むくらい吹きたがってた曲だしね」
シンヤも笑う。
思い出すのは二十五歳の誕生日。気落ちしてた私を慰めようと、三人がパーティーを開いてくれた。