続 音の生まれる場所(上)
「今、一番欲しいもの何?」
電話してきた夏芽の言葉に「楽譜」と答えた。
「楽譜?なんの?」
「グリーグの『朝の気分』。ナツ覚えてない?中三の時、音楽の教科書に載ってたこんな曲…」
口笛で最初のところを吹く。
「あ…そう言えば記憶にあるかも!真由が吹いてみたいって、少しだけ練習してたよね」
「そっ。すぐ断念したけど」
今と同じ。息が続かなくてすぐに断念した。
「それを今更また?どうして?」
「んー…ちょっと、挑戦してみたくなったの。困難な曲に…」
旅立つ坂本さんの背中を見ながら、困難に立ち向かうことの素晴らしさを真似してみようと思った。彼がドイツで頑張る間、自分も頑張ろうって思うものが欲しかった。
「ふぅん、そう…分かった。『朝の気分』ね!」
任せといて!と電話は切れた。まさか誕生日のお祝いにそれをくれるとは思わなかった。
「ずっと練習し続けてるんでしょ?」
ナツの言葉に頷く。
「してるけど…最近は少しサボり気味だったし…」
カズ君とデートするようになって、体力的に無理な時もあったから。
「今度どんな感じか聞かせてよ。私達のバンドの練習場所で」
カラオケボックス。大きな音を出しても構わないから。
「…いいけど、ホントにまだ下手くそだよ」
息切れ切れで吹く音はかすれることも多い。とても人様の前で演奏できるレベルじゃない。
「そんなこと言って、いつでも真由は自信なさそうにするけど、本番はいつもバッチリじゃん!」
「そーそー。肝座ってるって、こいつ」
「いざとなったらなんでも出来る力持ってるんだから、自信持てばいいのに」
子供の頃から私を見てきてる三人。ここに朔がいたら、きっと同じことを言っただろう。
「もうっ、三人とも他人事だと思って!…じゃあ私の練習にハルもシンヤも協力してよ⁉︎ そこまで言うなら」
一人で黙々と練習してると侘しくなってくる。楽団の定演でやると決まったからには、一緒に練習する相手が欲しい。
「お安い御用!」
「いつでも付き合ってやるぜ」
「真由、私も協力する!」
力強く言ってくれる仲間達。ブラスという縁が繋いでくれた心の友。
「じゃあ…お願いね!」
にっこり笑いながら、肩の力が抜けいていく。朔がいなくても、坂本さんがいなくても、私の周りには音を一緒に音を奏でてくれる友達や仲間が大勢いる。
有難いことだと思う。でも、それも全て、あの人が私を音の世界に戻してくれたから…。
「いつから始める?来週辺り?」
「来週はクリスマスコンサートあるから、1月に入ってからにしよーぜ」
「年末年始明けから!皆それぞれ予定もあるだろうし…」
ハルもシンヤも彼女がいたりいなかったり。今年はどうなのか、そこまで突っ込んで聞かないけど、二人ともそれぞれ予定はあるみたい。
「じゃあ…1月に入ったら。真由はそれまで個人練習して、少しでも腕上げといて!」
「はーい…」
押しの強い夏芽の声に返事する。
坂本さんが旅立って丸三年の今日、改めて仲間の有難さを教えてもらった。彼らがいてくれれば、寂しくなんかない。音の世界にいる限り、必ず何処かであの人とも繋がっていける。
目の前にいない人のことを頭の隅に置いたまま、その日一日を過ごす。
そんな旅立ちの日、彼はどこで、何をしているんだろうかーーー。
電話してきた夏芽の言葉に「楽譜」と答えた。
「楽譜?なんの?」
「グリーグの『朝の気分』。ナツ覚えてない?中三の時、音楽の教科書に載ってたこんな曲…」
口笛で最初のところを吹く。
「あ…そう言えば記憶にあるかも!真由が吹いてみたいって、少しだけ練習してたよね」
「そっ。すぐ断念したけど」
今と同じ。息が続かなくてすぐに断念した。
「それを今更また?どうして?」
「んー…ちょっと、挑戦してみたくなったの。困難な曲に…」
旅立つ坂本さんの背中を見ながら、困難に立ち向かうことの素晴らしさを真似してみようと思った。彼がドイツで頑張る間、自分も頑張ろうって思うものが欲しかった。
「ふぅん、そう…分かった。『朝の気分』ね!」
任せといて!と電話は切れた。まさか誕生日のお祝いにそれをくれるとは思わなかった。
「ずっと練習し続けてるんでしょ?」
ナツの言葉に頷く。
「してるけど…最近は少しサボり気味だったし…」
カズ君とデートするようになって、体力的に無理な時もあったから。
「今度どんな感じか聞かせてよ。私達のバンドの練習場所で」
カラオケボックス。大きな音を出しても構わないから。
「…いいけど、ホントにまだ下手くそだよ」
息切れ切れで吹く音はかすれることも多い。とても人様の前で演奏できるレベルじゃない。
「そんなこと言って、いつでも真由は自信なさそうにするけど、本番はいつもバッチリじゃん!」
「そーそー。肝座ってるって、こいつ」
「いざとなったらなんでも出来る力持ってるんだから、自信持てばいいのに」
子供の頃から私を見てきてる三人。ここに朔がいたら、きっと同じことを言っただろう。
「もうっ、三人とも他人事だと思って!…じゃあ私の練習にハルもシンヤも協力してよ⁉︎ そこまで言うなら」
一人で黙々と練習してると侘しくなってくる。楽団の定演でやると決まったからには、一緒に練習する相手が欲しい。
「お安い御用!」
「いつでも付き合ってやるぜ」
「真由、私も協力する!」
力強く言ってくれる仲間達。ブラスという縁が繋いでくれた心の友。
「じゃあ…お願いね!」
にっこり笑いながら、肩の力が抜けいていく。朔がいなくても、坂本さんがいなくても、私の周りには音を一緒に音を奏でてくれる友達や仲間が大勢いる。
有難いことだと思う。でも、それも全て、あの人が私を音の世界に戻してくれたから…。
「いつから始める?来週辺り?」
「来週はクリスマスコンサートあるから、1月に入ってからにしよーぜ」
「年末年始明けから!皆それぞれ予定もあるだろうし…」
ハルもシンヤも彼女がいたりいなかったり。今年はどうなのか、そこまで突っ込んで聞かないけど、二人ともそれぞれ予定はあるみたい。
「じゃあ…1月に入ったら。真由はそれまで個人練習して、少しでも腕上げといて!」
「はーい…」
押しの強い夏芽の声に返事する。
坂本さんが旅立って丸三年の今日、改めて仲間の有難さを教えてもらった。彼らがいてくれれば、寂しくなんかない。音の世界にいる限り、必ず何処かであの人とも繋がっていける。
目の前にいない人のことを頭の隅に置いたまま、その日一日を過ごす。
そんな旅立ちの日、彼はどこで、何をしているんだろうかーーー。