続 音の生まれる場所(上)
朔が亡くなってからの七年間、ずっと心の奥底に空いた穴から、全てが抜け落ちてカラカラだった。生きる気力も湧かず、ボンヤリとした日々ばかり送ってた。
その穴を塞いでくれたのが、坂本さんのペットだった。
語りかけるようなその音が、私の心に空いた大きな穴を埋めていってくれた…。
「生きた心地がしなかったでしょう?」
そう言って、笑いかけてくれた。
「これからは、音を取り戻して。もっと沢山聞いて下さい。その方が亡くなった彼氏も喜びますよ」
伝えてくれた…音じゃなく言葉で…。大事なことは…いつもそうやって教えてくれた…。
「忘れないよ…君が応援しているって語ってくれたことも。この星空のように日本にいてくれるってことも…」
送別会の夜、言ってくれた言葉は嬉しかった…。
だからまた会えると、そう…信じた。
「待っていようよ…真由。坂本さん絶対に帰って来るって、私…そう思えて仕方ないの…」
それを信じたかったのは私…。そうとしか思えなかったのも私…。
ただ…それをずっと言えずにいた…。言ってはならないと…心にブレーキをかけてた…。
「帰って…来る…?」
自分に問いかけるような気持ち。夏芽は私の手を握って、力強く頷いた。
「決まってるじゃない!きっと帰って来るよ…!」
泣きながら笑う夏芽の言葉に、応えることはできなかった…。カズ君のことを考えると、すんなりと声が出てこなかった…。
カフェを出た後、歩きながら柳さんとのことを話した。彼女は私の肩をギュッと抱いて、
「誰だって…支えが欲しくなる時はあるよ…真由だけじゃない…誰だってそう。自分を責めないで。真由はこれまでと…ちっとも変わってなんかない」
…と、励ましてくれた。
それからこの事は、二人だけの秘密にしようと言い、特に男性陣には言う必要もないと言って、笑い飛ばした。
「ハルもシンヤも、坂本さんの帰りを信じてると思うよ。あの二人、今でも坂本さんのこと慕ってるから…」
夏芽の言葉は、四年前のことを思い出させる。
私が楽団に入る前、ハル達から散々聞かされてた話。
私が楽団に入るのか入らないのか、今の気持ちはどうか聞いてこいって言われると…。
練習に初参加した日、嬉しそうにドアを開けたら彼がいなくて、ハルは大きくむくれてた。毎回の遅刻に呆れながらも、シンヤもハルも彼を尊敬してた。
遅刻してきた彼は平然とした様子で、真っ直ぐ私の所へやって来て、よろしく…と、嬉しそうな顔で言った。
あの時からきっと、彼は私の心の中にいたーーー。
揺れる電車の車窓から、ぼやける街並みを見つめる。
初春の夕暮れは早くも日が傾いて、ゆっくりと街がオレンジ色がかる。
心の片隅に置き去りにしたまま忘れられなかった彼への思いが、静かに音を奏で始めようとしていたーーーー。
その穴を塞いでくれたのが、坂本さんのペットだった。
語りかけるようなその音が、私の心に空いた大きな穴を埋めていってくれた…。
「生きた心地がしなかったでしょう?」
そう言って、笑いかけてくれた。
「これからは、音を取り戻して。もっと沢山聞いて下さい。その方が亡くなった彼氏も喜びますよ」
伝えてくれた…音じゃなく言葉で…。大事なことは…いつもそうやって教えてくれた…。
「忘れないよ…君が応援しているって語ってくれたことも。この星空のように日本にいてくれるってことも…」
送別会の夜、言ってくれた言葉は嬉しかった…。
だからまた会えると、そう…信じた。
「待っていようよ…真由。坂本さん絶対に帰って来るって、私…そう思えて仕方ないの…」
それを信じたかったのは私…。そうとしか思えなかったのも私…。
ただ…それをずっと言えずにいた…。言ってはならないと…心にブレーキをかけてた…。
「帰って…来る…?」
自分に問いかけるような気持ち。夏芽は私の手を握って、力強く頷いた。
「決まってるじゃない!きっと帰って来るよ…!」
泣きながら笑う夏芽の言葉に、応えることはできなかった…。カズ君のことを考えると、すんなりと声が出てこなかった…。
カフェを出た後、歩きながら柳さんとのことを話した。彼女は私の肩をギュッと抱いて、
「誰だって…支えが欲しくなる時はあるよ…真由だけじゃない…誰だってそう。自分を責めないで。真由はこれまでと…ちっとも変わってなんかない」
…と、励ましてくれた。
それからこの事は、二人だけの秘密にしようと言い、特に男性陣には言う必要もないと言って、笑い飛ばした。
「ハルもシンヤも、坂本さんの帰りを信じてると思うよ。あの二人、今でも坂本さんのこと慕ってるから…」
夏芽の言葉は、四年前のことを思い出させる。
私が楽団に入る前、ハル達から散々聞かされてた話。
私が楽団に入るのか入らないのか、今の気持ちはどうか聞いてこいって言われると…。
練習に初参加した日、嬉しそうにドアを開けたら彼がいなくて、ハルは大きくむくれてた。毎回の遅刻に呆れながらも、シンヤもハルも彼を尊敬してた。
遅刻してきた彼は平然とした様子で、真っ直ぐ私の所へやって来て、よろしく…と、嬉しそうな顔で言った。
あの時からきっと、彼は私の心の中にいたーーー。
揺れる電車の車窓から、ぼやける街並みを見つめる。
初春の夕暮れは早くも日が傾いて、ゆっくりと街がオレンジ色がかる。
心の片隅に置き去りにしたまま忘れられなかった彼への思いが、静かに音を奏で始めようとしていたーーーー。