続 音の生まれる場所(上)
胸が痛い。カズ君のストレートな気持ちに胸が痛んで仕方ない。
でも、言わなくちゃ…。でないと、私はまた…カラカラに乾いてしまう…。
「…ごめんね、カズ君…ブラスは私の生きる糧なの…。これを失くしたら生きていけないくらい…大事なものなの…だから…」
「もういいよっ!!」
吐き捨てるような声がした。カズ君の半端ない怒りが伝わってくる。今まで一度も聞かなかった思い。こんなにこじれる程、彼が我慢してたなんて、考えもしなかった…。
「もう分かったよ!そんなにブラスが大事なら、ずっとやってればいいだろ!俺なんかいなくてもいいんだろ!」
「そんな…カズ君…」
「いいって!今、真由子言ったじゃん!ブラスは自分の生きる糧だって!俺じゃねーんだよ!お前に必要なのは、俺じゃねーんだよ!!」
突きつけられた本音。自分の本心を、知らないうちに喋ってた…。
「…分かってたんだよ。いつかこうなるんじゃないかって…。ブラスに、真由子を取られるんじゃないかって…」
持っていた不安が的中しただけだ…彼はそう呟いた。違うと言いたくても…言えなかった……。
「私にとって…カズ君は大事な人だよ…。それは…ホントだよ…」
何がどう大事か、言葉で言い表せられない。ブラスのような心の拠り所でもなければ、坂本さんのような支えでもない。寂しさを紛らすアイテムにしか過ぎない…。それでも、やっぱり、他の何より大事…。
「もういーよ…言われれば言われる程傷つく…。いっそ俺なんか要らないって言われた方が、どんなに楽か知らねー…」
泣いてるみたいに声が震えてる。鼻をグシュ…と言わせる。
…泣かせた…。子供の頃、泣いてるカズ君を笑わせてた私が、大人の彼を泣かせてしまった…。
「カズ君……ごめんね…」
涙が目に溜まってくる。
「ごめんね…カズ君…ごめんね…」
許してもらおうなんて、思ってない。ずっと、怒ったままでいてもいい。私はそれくらい、彼に酷い事をしたーーー。
「ごめんなさい…ホントに…ごめんなさい…!」
涙の雫が頬から顎を伝って落ちていった。声を出さずに泣く私の耳に、鼻をすすりながらの彼の声がした。
「謝んなよ……謝れると…余計に惨めだ…」
負けず嫌いのカズ君の言葉。ぐっと泣くのも我慢する。
「真由子には…もう会わねー。…お前も、その方が楽だろ⁈ 」
「………」
ーーー楽だと、返事ができなかった。でも、カズ君は無言の私の答えを、イエスと受け止めた。
「…元気でな。気の強いままの真由子でいろよ…」
最後の最後まで、私のことを気遣ってくれる。ハートの大きな彼。この気持ちに答えられない今が、一番情けない…。
「…カズ君も…野球…頑張って…」
万年負けてばかりの草野球チームで、いつもただ一人悔しそうだった彼。負けず嫌いで、笑顔が可愛くて、人一倍優しい人…。
「私…カズ君に会えて嬉しかった…」
半年間の感謝を込める。「大好き」は言えないけど、時間を共有できたこと、ホントに有難いと思ってる。
「カズ君に会えて…ホントに嬉しかった……」
寂しさを分け合ってくれた。私に、スポーツの楽しさを教えてくれた。一人じゃないと思わせてくれた。一緒に…いてくれた……。
「俺は…ちっとも嬉しくねーよ…!」
少なくとも今はな…と、電話が切れた。通信音が少しだけ聞こえた後、無音になる…。
溢れる涙が、一人になった…と言ってる。誰もいなくなった…と心が叫んでる。
でも、何故か寂しくないーーー。
耳の奥に、トランペットの音色が響いてくる…。朔が亡くなった時と同じ。心を支えてくれる…。
元気を出せ…前を見ろって…。
朔のに似てる…。
でも、朔のじゃない…。
この音色は……
(…坂本さんのだ……)
でも、言わなくちゃ…。でないと、私はまた…カラカラに乾いてしまう…。
「…ごめんね、カズ君…ブラスは私の生きる糧なの…。これを失くしたら生きていけないくらい…大事なものなの…だから…」
「もういいよっ!!」
吐き捨てるような声がした。カズ君の半端ない怒りが伝わってくる。今まで一度も聞かなかった思い。こんなにこじれる程、彼が我慢してたなんて、考えもしなかった…。
「もう分かったよ!そんなにブラスが大事なら、ずっとやってればいいだろ!俺なんかいなくてもいいんだろ!」
「そんな…カズ君…」
「いいって!今、真由子言ったじゃん!ブラスは自分の生きる糧だって!俺じゃねーんだよ!お前に必要なのは、俺じゃねーんだよ!!」
突きつけられた本音。自分の本心を、知らないうちに喋ってた…。
「…分かってたんだよ。いつかこうなるんじゃないかって…。ブラスに、真由子を取られるんじゃないかって…」
持っていた不安が的中しただけだ…彼はそう呟いた。違うと言いたくても…言えなかった……。
「私にとって…カズ君は大事な人だよ…。それは…ホントだよ…」
何がどう大事か、言葉で言い表せられない。ブラスのような心の拠り所でもなければ、坂本さんのような支えでもない。寂しさを紛らすアイテムにしか過ぎない…。それでも、やっぱり、他の何より大事…。
「もういーよ…言われれば言われる程傷つく…。いっそ俺なんか要らないって言われた方が、どんなに楽か知らねー…」
泣いてるみたいに声が震えてる。鼻をグシュ…と言わせる。
…泣かせた…。子供の頃、泣いてるカズ君を笑わせてた私が、大人の彼を泣かせてしまった…。
「カズ君……ごめんね…」
涙が目に溜まってくる。
「ごめんね…カズ君…ごめんね…」
許してもらおうなんて、思ってない。ずっと、怒ったままでいてもいい。私はそれくらい、彼に酷い事をしたーーー。
「ごめんなさい…ホントに…ごめんなさい…!」
涙の雫が頬から顎を伝って落ちていった。声を出さずに泣く私の耳に、鼻をすすりながらの彼の声がした。
「謝んなよ……謝れると…余計に惨めだ…」
負けず嫌いのカズ君の言葉。ぐっと泣くのも我慢する。
「真由子には…もう会わねー。…お前も、その方が楽だろ⁈ 」
「………」
ーーー楽だと、返事ができなかった。でも、カズ君は無言の私の答えを、イエスと受け止めた。
「…元気でな。気の強いままの真由子でいろよ…」
最後の最後まで、私のことを気遣ってくれる。ハートの大きな彼。この気持ちに答えられない今が、一番情けない…。
「…カズ君も…野球…頑張って…」
万年負けてばかりの草野球チームで、いつもただ一人悔しそうだった彼。負けず嫌いで、笑顔が可愛くて、人一倍優しい人…。
「私…カズ君に会えて嬉しかった…」
半年間の感謝を込める。「大好き」は言えないけど、時間を共有できたこと、ホントに有難いと思ってる。
「カズ君に会えて…ホントに嬉しかった……」
寂しさを分け合ってくれた。私に、スポーツの楽しさを教えてくれた。一人じゃないと思わせてくれた。一緒に…いてくれた……。
「俺は…ちっとも嬉しくねーよ…!」
少なくとも今はな…と、電話が切れた。通信音が少しだけ聞こえた後、無音になる…。
溢れる涙が、一人になった…と言ってる。誰もいなくなった…と心が叫んでる。
でも、何故か寂しくないーーー。
耳の奥に、トランペットの音色が響いてくる…。朔が亡くなった時と同じ。心を支えてくれる…。
元気を出せ…前を見ろって…。
朔のに似てる…。
でも、朔のじゃない…。
この音色は……
(…坂本さんのだ……)