続 音の生まれる場所(上)
輪の中にいる人が、輪の外へ出て来る。一歩一歩近づいて来て、私の前で立ち止まった。
写真と同じ。綺麗な弧を描いた眉。高い鼻。切れ長の目。第一印象の時と同じ。王子様みたいな顔…。

「ただいま…小沢さん…」

優しい声が、私のことを呼んだ。初めて練習に参加した時と同じように、躊躇することもなく手を握った。

「トップソロするんだってね。聞きたくて…飛んで帰ってきたよ!」

照れながら笑ってる。なんでそんなにアッサリ言えるのか分からない。
三年も経っているのに…昨日や今日のことじゃないのに…まるで時間なんて関係ないみたいな感じで…壁なんて、まるでない感じで…

「呆れる…ホントに…」

声に出た、一番最初の言葉。後から死ぬ程、後悔したーーー。


「呆れます…ホントに…こんなアッサリ…帰って来て…」

握られた手が誰よりもあったかだった。カズ君とも、柳さんとも違ってた。

「こんな…すぐ会えるなんて…私はもっと…時間がかかるのかと思って……」

涙が溢れ始める。言いたいことは沢山あるのに、邪魔して喋れない…。

「私…負けないように…いっぱいいっぱい…練習して……」

泣き声が漏れる。言いたいことの半分も上手く話せない…。

「少しでも…上手く…語れるように…なりたくて…坂本さんの…ように……音を…言葉として……」

目から涙が伝っていく。何もかも…それに遮られる。胸が一杯で、苦しくて、たまらないーーー

「…おかえりなさい…ずっと…ずっと待ってました……!」

ぎゅう…と、手を握りしめた。あの日と同じように、自分の思いを手の中に込めた…。

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