続 音の生まれる場所(上)
ククク…ッと笑いを堪える。運転席にいる三浦さんは、さっきからそれを何度も繰り返していた。
「あの…そろそろ笑うの止めてもらえませんか?」
さすがにずっと聞いてると腹が立ってくる。困ったように言う私をちらりと横目で確認し、三浦さんがゴホゴホ…と咳をした。
「いや、ごめん。朝のことを思い出したら可笑しくてね…」
再び笑い出そうとするのを睨んで止める。唇の端を歪ませそうになる三浦さんが、深呼吸を繰り返した。
「…報告会、良かったね。編集長が出てくれることになって…」
声が落ち着きを取り戻す。ようやくホッとした。
「はい…ホントに助かりました…」
帳簿はきちんとつけてある。編集長には何度も説明したし、迷惑はかからないとは思うけど…。
「でも…大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だろう。あー見えて結構いろんな所に気を配ってるから」
伊達じゃないよ…と話す。三浦さんの言葉を信じ、ホッと胸をなで下ろした。
水野楽器工房までは、車で一時間弱。二人きりのドライブは久しぶりだけど、今日はいつもに増してドキドキする。
隣に三浦さんがいるから…じゃなくて、あの人に会うから。
「…そう言えば、坂本さんが電話で言ってたお礼って何のことだい?小沢さん、彼に何か送ったりした?」
運転しながら三浦さんが聞く。ドイツへ…ってことみたい。
「いいえ。私、坂本さんの連絡先とか一切知らなかったので、何も送った事ないですよ。だからお礼言われることなんて、何もないと思うんですけど…」
何のことかサッパリ分からなくて頭をひねる。不思議がる私を見て、三浦さんは「あ、そうか…」と呟いた。
「単に、小沢さんに会いたかっただけなのかも…」
「えっ⁉︎ ま、まさか…そんな事ないですよ!」
心臓に悪いこと言う。ギョッとする私を横目で見て、三浦さんはまたしても笑った。
「冗談冗談!もしそうなら編集長にどやされる!」
私用になるからだ…って。困った人だ。
「まあ行けば分かるって事だから、楽しみにしとこう」
私のことなのに、三浦さんが楽しみにしてる。それも何だか変な話。
窓の外を眺めながら、お礼について考えてみる。どんな事か分からないけど、感謝したいのは自分の方だ。
(私も…お礼言おう…)
一昨日帰って来たばかりの彼の話。私の知らない三年分の話を、着くまでの間、いろいろと想像したーーー。
「あの…そろそろ笑うの止めてもらえませんか?」
さすがにずっと聞いてると腹が立ってくる。困ったように言う私をちらりと横目で確認し、三浦さんがゴホゴホ…と咳をした。
「いや、ごめん。朝のことを思い出したら可笑しくてね…」
再び笑い出そうとするのを睨んで止める。唇の端を歪ませそうになる三浦さんが、深呼吸を繰り返した。
「…報告会、良かったね。編集長が出てくれることになって…」
声が落ち着きを取り戻す。ようやくホッとした。
「はい…ホントに助かりました…」
帳簿はきちんとつけてある。編集長には何度も説明したし、迷惑はかからないとは思うけど…。
「でも…大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だろう。あー見えて結構いろんな所に気を配ってるから」
伊達じゃないよ…と話す。三浦さんの言葉を信じ、ホッと胸をなで下ろした。
水野楽器工房までは、車で一時間弱。二人きりのドライブは久しぶりだけど、今日はいつもに増してドキドキする。
隣に三浦さんがいるから…じゃなくて、あの人に会うから。
「…そう言えば、坂本さんが電話で言ってたお礼って何のことだい?小沢さん、彼に何か送ったりした?」
運転しながら三浦さんが聞く。ドイツへ…ってことみたい。
「いいえ。私、坂本さんの連絡先とか一切知らなかったので、何も送った事ないですよ。だからお礼言われることなんて、何もないと思うんですけど…」
何のことかサッパリ分からなくて頭をひねる。不思議がる私を見て、三浦さんは「あ、そうか…」と呟いた。
「単に、小沢さんに会いたかっただけなのかも…」
「えっ⁉︎ ま、まさか…そんな事ないですよ!」
心臓に悪いこと言う。ギョッとする私を横目で見て、三浦さんはまたしても笑った。
「冗談冗談!もしそうなら編集長にどやされる!」
私用になるからだ…って。困った人だ。
「まあ行けば分かるって事だから、楽しみにしとこう」
私のことなのに、三浦さんが楽しみにしてる。それも何だか変な話。
窓の外を眺めながら、お礼について考えてみる。どんな事か分からないけど、感謝したいのは自分の方だ。
(私も…お礼言おう…)
一昨日帰って来たばかりの彼の話。私の知らない三年分の話を、着くまでの間、いろいろと想像したーーー。