続 音の生まれる場所(上)
「お待ちしておりました」
工房に着くと社長の奥さん、つまり水野先生の奥さんが、ニコニコしながら出迎えてくれた。
「ご無沙汰しております」
礼儀正しく三浦さんが挨拶する。それに合わせて、自分も頭を下げた。
「お久しぶりです。お邪魔します」
奥さんとは顔見知り。演奏会で、時々お顔を拝見する。
「いらっしゃい。理ちゃんが首を長くして待ってたわよ!」
理ちゃんというのは坂本さんのこと。息子みたいに可愛がってる、奥さんだけの呼び方。三浦さんがこっちを見てニヤつく。視線に気づいて、焦って顔を背けた。
「き…気のせいですよ…」
照れながら工房の中に入る。ここへ来たのは三年ぶりくらい。ドイツへ旅立つ前、坂本さんにフルートを聞かせに来て以来だ。
木の香りがする玄関口は、変わらず健やかな空気が漂ってる。広くて高い吹抜けに、気持ちが安らいでいく。
この場所で作り出された楽器の音が、カラカラだった私の心を…潤してくれたーーー。
「少しお待ち下さいね」
上品な笑みを浮かべて奥さんが退室する。ドキドキする胸の鼓動と戦いながら、少しでも落ち着こうと紅茶のカップに手を伸ばした。
「すみません…!お待たせして…!」
待つ間もなくドアが開いた。ビクッ!として、紅茶が溢れた。
「熱っ!」
慌てて手を放す。その声に反応して、彼が駆け寄って来た。
「大丈夫⁉︎ 火傷しなかった⁉︎ 」
躊躇もなく手を掴む。こっちは心臓が飛び出しそうな程驚いているのに、坂本さんは真剣な顔で指を見ていた。
「あ…あの…大丈夫です…。ちょっとかかっただけだし、火傷する程、熱くもなかったし…」
鼓動が速くなる。早く手を放してもらいたくて、彼に声をかけた。ハッとした顔と目が合う。
(ヤバい…今、ゼッタイ顔赤い…)
焦って俯く。それを見て、三浦さんが咳払いをした。
「あ…どうも失礼しました」
坂本さんが手を放す。ニヤニヤしながら、三浦さんが私達を見る。
状況を思い出したように立ち上がり、坂本さんが深々と頭を下げた。
工房に着くと社長の奥さん、つまり水野先生の奥さんが、ニコニコしながら出迎えてくれた。
「ご無沙汰しております」
礼儀正しく三浦さんが挨拶する。それに合わせて、自分も頭を下げた。
「お久しぶりです。お邪魔します」
奥さんとは顔見知り。演奏会で、時々お顔を拝見する。
「いらっしゃい。理ちゃんが首を長くして待ってたわよ!」
理ちゃんというのは坂本さんのこと。息子みたいに可愛がってる、奥さんだけの呼び方。三浦さんがこっちを見てニヤつく。視線に気づいて、焦って顔を背けた。
「き…気のせいですよ…」
照れながら工房の中に入る。ここへ来たのは三年ぶりくらい。ドイツへ旅立つ前、坂本さんにフルートを聞かせに来て以来だ。
木の香りがする玄関口は、変わらず健やかな空気が漂ってる。広くて高い吹抜けに、気持ちが安らいでいく。
この場所で作り出された楽器の音が、カラカラだった私の心を…潤してくれたーーー。
「少しお待ち下さいね」
上品な笑みを浮かべて奥さんが退室する。ドキドキする胸の鼓動と戦いながら、少しでも落ち着こうと紅茶のカップに手を伸ばした。
「すみません…!お待たせして…!」
待つ間もなくドアが開いた。ビクッ!として、紅茶が溢れた。
「熱っ!」
慌てて手を放す。その声に反応して、彼が駆け寄って来た。
「大丈夫⁉︎ 火傷しなかった⁉︎ 」
躊躇もなく手を掴む。こっちは心臓が飛び出しそうな程驚いているのに、坂本さんは真剣な顔で指を見ていた。
「あ…あの…大丈夫です…。ちょっとかかっただけだし、火傷する程、熱くもなかったし…」
鼓動が速くなる。早く手を放してもらいたくて、彼に声をかけた。ハッとした顔と目が合う。
(ヤバい…今、ゼッタイ顔赤い…)
焦って俯く。それを見て、三浦さんが咳払いをした。
「あ…どうも失礼しました」
坂本さんが手を放す。ニヤニヤしながら、三浦さんが私達を見る。
状況を思い出したように立ち上がり、坂本さんが深々と頭を下げた。