私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
弟との晩御飯を済ませ、お風呂に入り、ちょっとだけ勉強をして、お目当てのテレビを観ていたりすると、もう就寝時間帯になっていた。
早いな、時間が過ぎるのは。
こんな感じで青春は終わって、大人になって、おばあちゃんになって、一生を終えるのか。
淋しいな。と感傷気味になっていると、コンコン、と扉を叩く音がした。
あ、弟だ。
何?と言葉を返すと、入っても良い?と返ってきた。
朝、不法侵入したくせに。
いまさら、そんな。
『……………………良いよ。』
暫く間があったが、弟が律儀に待っているので、あきらめた。
扉を開けて、弟が入ってくる。
湯上がりなのか、しっとりと黒い髪が濡れて、肌が火照っている。
普段、私の前では微笑みを絶やさない弟が、真顔で髪をタオルで拭いていた。
あまり垣間見ない、弟の真顔を見つめていると、弟が色っぽく微笑んだ。
「…寝よ、おねぇちゃん。」
弟が言うと、少し…いや、メチャメチャ意味深に聞こえるが、聞き流す。
だって、家族だし。
私が布団に入ると、すぐ弟が入ってきて、布団の中で私を抱き締めた。
恋人に、する行為のように。
優しく、私を包む。
「…おねぇちゃん。おやすみ。」
弟は、私の胸に顔を寄せて、私より早く眠った。
弟は、私の事を病的に好きだ。
物心ついた時から、うっすらとだが、私は感じていた。
家の中に居る時も、学校に居る時も、ずっと、弟の視線を感じていた。
熱の籠った、視線を。
ずっと、感じて生きてきた。
それが、私の【日常】だった。
だけども、その視線は、だんだんと、着実に、歪んだ熱が籠るようになっていっていた。
私には、その歪んだ熱を取り払う事は出来ない。
取り払おうと、すれば。
二度と逃がさぬように、歪んだ熱に足を焼かれ、もがくことも出来ないまま、熱に呑まれてしまうだけ。
私に出来るのは、ただ。
ただ、弟が歪んでいく速さを、
ゆっくりと遅めるだけ。
弟のことを刺激する、何かが無い限りは、弟は病んでいかない、だろう。
どうか、そんな出来事が起こりませんように。
そう願って、目を閉じた。
けれども、神様は残酷だ。