私の弟がヤンデレ過ぎて困る。

自分でも、驚く程の猛スピードで食堂まで駆け抜けると、野次馬の分かれ目にショウの姿が見えた。





ショウ!と叫ぼうとする前に、河原君の声がした。






「…オイオイ、突っかかる相手、間違ってんじゃねーのか?死ぬ覚悟は出来てんだろーなぁ?」

河原君が、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて、ショウを睨む。

出てる殺気が半端じゃない、程。



「…そっちこそ、先にコレを選んだのは、俺の方でしょ?後から来た癖に突っかかってこないでよ。センパイ?」

ショウも負けず劣らず、河原君の事を睨みあげる。

しまった、こんなところでショウの【負けず嫌い】の性格が出てしまった。





「…ほー。言うねぇ。なら、センパイとして言わせて貰うけどよ?1年の鼻水垂らした餓鬼が、2年のカッコいいセンパイにモノを譲るのは、当たり前じゃねぇのか?」


「言っておきますけど、そういう価値観は部活内で威張るしか能の無いセンパイのやる事なんで。てゆーか、1年離れてるくらいで、センパイもなにもないよね。」


ビリビリと緊張感が伝わってくる。


河原君もショウも一歩も退かずといったところだ。だが、河原君がショウの顔を見て、大きな声を出して笑いだした。




「ははははは!!そうか!どうりで見に覚えのある顔だと思ったら、今朝、俺が弾いた鉄パイプに当たって怪我したイケメン君ね。今、思い出したわ!」

愉快そうに笑う河原君。


「それはどうも~。てか、アンタわざと当てたんじゃないの?」

ショウの眼が妖しく光る。


「…は?なにいってんの?お前。わざわざお前みたいな顔だけ坊っちゃんのヤツに当てる程、暇じゃねぇし。」



緊張感がまた一層激しくなる。
食堂を管理しているベテランのおばちゃん達が、怯えている。



どうにか、しなければ。




…それに、なんであの二人はああいう風になったのだろう。



あの二人が言い争って、手に入れたいものって、なんだろう。





ちょっとした好奇心で、身を乗りだして、ショウの持っているモノを見る。






それは、私の大嫌いなアノ…























墨ジュースだった。





「…お前、両手に2本同じヤツ持ってるくせになんで、1本譲れねぇんだよ。ケチか、お前は。」


「なんでって、必要だからに決まってるでしょ。」


う、えええ!??
あの墨ジュースで、言い争ってたの!?

河原君、死ぬ覚悟は出来てんのか、ってあの墨ジュースで人一人、殺す気してたの!?ねぇ!ご両親涙目だよ!

しかも、ショウ!なんで、あの墨ジュースまた買おうとしてるの!?しかも、2本!自分用だよね!全部、自分用だよね!?

「お前さ、1人で2本開けようとかデブのやる事だから。お前ただの食いしん坊じゃね?」

そうだよ!もっと言ってやれ!河原君!


「…別に、俺が全部飲むわけじゃないし。」

「………あ″?じゃあなんなんだよ?」




「……これは、











全部おねぇちゃんにあげるモノだし。」





殺す気!??
1本で、謎の吐き気に襲われて、躰とか倦怠感超絶凄かったのに、2本飲めとか、拷問ですか!?


「…おねぇちゃんには、俺よりも…もっと、健康であって欲しいから…。」

熱っぽい顔で2本の野菜ジュースを見つめるショウ。


いや、お気持ちは有り難いですが、

そんな心折設計はいらない!!



対する河原君は。

「…うっわ、お前シスコンかよ。マジ引くんですけど…。」

と顔を青ざめていた。

今の二人はいかにも対称的だ。


だが、今しかない。




緊張感が、少し薄まった中、二人の衝突を避けるのはこのタイミングしかない。





私は、大きく息を吸って、声を出した。


















『タイム!!!』

私の大声に周りが怯んで、道を開ける中、私は一目散にショウの下に向かった。



「え。おねぇちゃ…」

ショウが言葉を発する前にショウの持っている墨ジュースを河原君に、どうぞ!と全部渡した。そして、ショウの手を掴み、食堂の出口を突っ切って、全速力で走り抜けた。



後ろから、「タイムってなんだ!!」と河原君っぽい言葉がしたが、聞こえないフリをして、食堂を後にする。


あぁ、やっちゃったな、私。


と後悔しながら。

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