私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
鳳先生が、いないわけなかった。
いつも、鳳先生は授業開始の5分前には、もう教室にいるのだ。
鳳先生の氷のような鋭い瞳が、私を貫く。
「………………早く、座りなさい。」
機械的に、命令ともとれる口調で、静かにそう言った。
『あの…遅れてきて、すみません。』
謝罪の言葉を述べるも、教卓に立った鳳先生は、一瞬だけ視線をこちらに向けただけで、すぐに戻して、私が席についてから、授業を始めた。
鳳先生の数学は、事務的にまるで機械のように、正確で温度がない授業だ。
生徒を楽しませたり、生徒のやる気を出させる為に工夫したり、授業前の自分のプライベートな話をするとかは、一切無い。
ただ、正確に教えるだけ、の授業だ。
私は、別にこの数学の授業が嫌いって訳ではない。
ただ…、この鳳先生がつくる授業の空気が、嫌なだけなんだと思う。
冷たく、温度の無い、この空気が。
数学の時間は、刻々と時間をたてて、終わっていった。
やはり、何度鳳先生の授業を受けても、鳳先生の事は、好きになれそうに無い。
今回の数学の授業に遅刻して、冷たい態度をとられたのもあるけれど、それだけでは、ないと、直感で思う。
あの人は、人間味が無いのではないか、と。
だから、私はこう直訴致します。
『…実に申し訳御座いません。鳳先生、不束な願いだとは、承知しておりますが、今一度、今一度…【遅刻してきた者に対する明日までの宿題数学ドリル100ページ】はどうか、御勘弁を。それか、何卒、どうか…どうか提出期間の延長を御願い致しまする!!』
「…センナちゃん。鳳先生、教室から出ていったよ。」
それって、時代劇?とるいちゃんからご指摘いただきまして候。
やっぱ、ダメか。
と、机に置かれた《よいこの数学高校講座 地獄怒涛の4000問 これで、きみも理系くん。》が目に入って痛い。
鳳先生は、多分人じゃない。
そんな確信が、頭に過った。
今夜は、ドリルが寝かせてくれないらしい。
コンビニで眠気覚ましの栄養材でも買わないと、とぼんやり思っていた。