私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
てす、てーす。
応答願えるだろうか、神様。
願えるならば、どうか…、
この状況をどうにかしてくれ、頼む。
先程の黒い色のソファーに座り、長い脚を組んでいる河原君の、何故か向かいの白いソファーに正座して座っている私。
河原君は、封筒の端を手でちぎり、学級通信と学年通信と、保護者へのお便りを黙々と読んでいた。
やがて、読み終えると、紙をまとめて、両手で二つに裂き、四つ、八つと、細かく千切って、机の上にばらまいた。
「読む価値もなかったな。」
後で、これ全部お前捨ててこいや。と理不尽なご命令がかかった。
いや、あの…ご自分でどうぞ…。
とは言えず、河原君に対する色々な思いが混ざり、『う…うっす。』と体育会系の男子の肯定になってしまった。
河原君は、そこには触れず、というよりかはどうでも良いのだろう。あっさり、肯定を通し、私に問いを投げ掛けた。
「…お前を俺に差し向けた奴は、誰だ?名前を言え。…そうしたら、少しはシメんのも、手ぇ抜いてやるよ。」
シ、メ、ら、れ、る、!
え、嘘でしょ。
いや、いくらあの噂通りのヤンキーだとしても、女子はちょっと…、ダメだと思います。
「…うっせぇ。前触れもなく、ノックもしねぇで、俺の所に来た段階で、ボコられんのは、当たり前だろ。」
すみません。ボコられるの間違いでした。訂正をし、重ねてお詫び致します。
「…いいから、答えろよ。お前にこの場所を教えたのは、どいつだってよ。」
『…教えたら、その人、どうするんですか?』
河原君の目を真っ直ぐに見て、聞く。
その様子に、河原君は一瞬目を見開いたが、すぐに平常の顔に戻り、ニヤリと笑みを浮かべながら、悪人顔でこう言った。
「半殺しにして、引きずりまわすだけだっつーの。そんなコト気にすんなよ。ニノマイちゃん。」
『…黙秘権を行使します。』
「あっそ、なら【言いたくなる】まで、待ってればいいんだな。」
『…ぅ、それは…ちょっと、あの…。』
持久戦は、不利だ。圧倒的に不利だ。
相手はあの河原君。ただでさえ、目付きと性格が恐ろしいのに、その彼とこれ以上、部屋の中で二人っきりは不味い。
なにより、彼が大人しく、お気に入りのソファーの上で座っているだけな訳がない。私の事をシメる、ボコると言っていたので、確実にそうするのだろう。逃げようにも、彼がみすみす逃亡を許してくれる訳が無い。行動するだけ、無駄だ。
どっちにしろ、私の逃げ場は無い。
糸色 望。
その二文字が、私の中で、渦巻いた。
「ハハハハッ!そんな顔すんなよ。もっと気張っていこうぜ、ニノマイちゃん。しけた面した奴、ぶん殴っても面白くねぇからさァ?」
『ゲスい!ゲスいよ!河原君!励ましているように見せかけて、叩き落とすなんて、高等テクニック見せつけないで良いよ!』
「やっと、本音が出たなァ。ニノマイちゃん。なら、【今から】おっ始めるか?」
河原君が、ソファーから立ち上がり、私の方に近付いてくる。
河原君の右腕が咄嗟に私の上に来る。
私は、ぎゅっと深く目を瞑り、両手で自身を守ろうと反射的に動く。
河原君の右腕が、降り下ろされる瞬間、私の携帯の着信音が流れた。
「…あん?」
河原君は、私に降り下ろす手を、携帯の音の鳴る、私の胸ポケットに突っ込み、携帯の画面を見た。
【着信 ショウ】
「…へぇ、あの坊っちゃんからねぇ。」
河原君は、私の方を見て、ニタリとまた悪い笑みを浮かべると、携帯を通話画面に切り替えた。
「…よぉ、坊っちゃん。ちょっと話があんだけどよ。」
ショウ。と声を出す前に、河原君の残った左腕で口を塞がれてしまった。
「…お前のネェチャンが俺のとこにいんだけど、迎えにきてくれねぇか?場所は教えるからよ。」
左腕で力任せに、押さえられているため、声が出せない。それに、鼻も塞がれていて、息が、続か、ない…。
「…ニノマイちゃんのこと、大事なら、急いで来いよ?
5分以内に来ねぇと、お前のネェチャンに、なにかあっても文句言うんじゃねーぞ?じゃあな。イケメン君。」
そこで、私の意識は途絶えた。