私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
ショウ!と私は持てるだけの力を振り絞って、弟の名前を呼んだ。
弟は、それに答えるかのように、優しく微笑んだ。
河原君は、チッと舌打ちをして、心底憎らしそうにショウを睨み付けた。
「…イケメン君さぁ?お前どんだけ空気読めねぇんだよ。これから、俺とニノマイちゃんで【楽しい】事するのによォ。あんまり調子乗ってると、シバくぞ?コラァ?」
「お前みたいな極悪金メッキが、俺のおねぇちゃんに触らないでよ。気持ち悪い。すぐにその汚い手離さないと、お前こそ、シバくどころじゃ済まさないけど?」
「…相変わらず、口だけは達者だよな、坊っちゃんは。でもなァ、先に約束破ったのは、お前だろ?5分以内に来いっつたのに、遅れて来て、ヒーロー気取りは痛すぎるんじゃねぇの?」
河原君が、ショウに【00:00】が表示されている携帯の画面を見せた。
あの、機械的な効果音はアラームだったのだろう。
私は、意識が途切れ途切れであまり明確ではないが、5分以内に来い。という、河原君の言葉は聞き取れた。
ショウは、その時間に遅れて来たという事なのだろうか?
…無理も無いだろう。
ショウの教室は1階。今いる、屋上は6階だ。いくら、運動部の部活に入っているショウでも、全力疾走で8分はかかるだろう。
いくらなんでも、河原君はタチが悪過ぎる。
「…約束は約束だろ?なら、約束通りに、お前のネェチャン可愛がってやるから、そこで黙って見てろよ。お前も後で、死なない程度に、痛めつけてやるからさァ。」
河原君が、私の制服の胸元を掴み、無理矢理力ずくで私を河原君の方に向かせた。視界には、歪んだ笑みを浮かべた彼の恐ろしい顔。それだけで、卒倒しそうだ。
「…おねぇちゃんに、触るなって言ってるじゃん。……このクソヤンキー。」
ショウの声がした、と思えば、その瞬間、私の制服を掴んでいた河原君の腕に何かが凄まじいスピードで激突した。
「―――――――ッ。」
河原君は、急な衝撃と驚きと激痛で、私から手を離し、私とショウから距離をとった。
ショウが私のところに、駆け寄り、私の無事を確認する。
そして、私が無事だと分かると、
「…良かった。本当に……良かった。」
と顔を綻ばせた。
そして、河原君の前にあった私を背中に護るように隠すと、河原君にこう言った。
「…最初に、約束破ったのはお前じゃん。4階の応接室にいるって言ってたのに、屋上で俺のおねぇちゃんと、何をしようとしてたんだよ。この変態。」
ショウがゴミを見るような目で、河原君を見る。
「…その当たった鉄パイプ、返しに来たよ。ザマーミロ、停学野郎。」
いや、あの…ショウ、ちょっと言い過ぎじゃ…、
「―ッ、ははははははははは!!」
河原君が、急に笑い出した。
この状況を心から楽しんでいるかのように。
「…―はぁ、もうお前ら、最高。姉弟揃って面白い性格してるよな。初めて、見たわ。こんな奴。お前も大変だな、ニノマイちゃん。こんな化けモンが自分の弟で!」
河原君が、また笑った。
そして、ひとしきり笑い終えると、河原君の周りの空気が一変して、重く、威圧感と殺気が顔を出した。
「気が変わったわ。…ニノマイちゃん。お前は、五体満足で帰してやるよ。でもなァ、お前の弟の方は諦めろ。
俺が、消すから。」
河原君が、自身の腕に当たった鉄パイプを拾って、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「…さぁ、坊っちゃん。お前より、カッコ良くて、イカしたセンパイがお前にセンパイに対する、礼儀って奴を教えてやるよ。…冥土の土産にな!!」
河原君が、ショウに向かって走り、鉄パイプを全力で振りかざす。
ショウはそれを、避けられない。
背中には、私がいるからだ。
私の事を、誰よりも想うショウは、河原君の強烈な一撃を避けられない。
代わりに、受け止めるしか無い。
…怪我をした腕で、受け止めるしか。
河原君の化け物みたいな腕力を全開にして、降り下ろされた硬い鉄パイプを受け止めてしまったら、今度こそ、骨が折れてしまうだろう。
…そうしたら、ショウは…もう。
河原君は、それを分かっている。
だから、今でも、歪んだ笑みを絶やさない。
わ
た
し
は、
どうすれば。
気がついた時には、体が動いていた。