私の弟がヤンデレ過ぎて困る。




「…昨日は、世話になったなァ?ニノマイちゃん。おかげで、バッチリ目が覚めたわ。30分ごとにな。」



『…………すみません。』


「謝る事ねぇじゃねーか。だって、お前【なんにも】悪い事してねぇーんだろ?たとえ、俺の左腕が使いモンにならなくても、周りのもの全て、ぶっ壊したくなる程、頭が痛くてもよォ?」



まだ、肌寒い風と雪が道路に残っている冬が終わる季節の朝。


普段とは、1時間以上も早く、予期しないクラスメイトのお迎えが来た。


死神、河原君の。


左腕は、三角巾で固定されていて、頭は包帯がぐるぐる巻きになっている。


まるで、戦場から帰還した兵士の様な佇まいだ。表情は悪鬼だけれども。



河原君と、まだ人の少ない通学路を渡る。河原君の、殺気を一身に受けて、メンタルポイントを削ぎ落とされながら。


『…あの、本当に、ごめん。河原君。別に、河原君に危害を加えようとした訳じゃなくて…、河原君を止めようとした訳だから。だから、その…ごめん。』


「お前の坊っちゃんはヤル気マンマンだったけどなァ?」

『…………すいません。』

「だから、謝んなって。謝ったら、余計お前らに償って貰おうとか考えちゃって、つい実行したくなるんですけど?」


『う……えっと、…ご、良い天気ですね。河原君。』


「…はい、ご、って聞こえたから死刑執行。」


河原君が右腕で、私の首を締める。
凄い腕力で首の骨が悲鳴をあげている。


『うわあぁ、ごめんなさい!河原君!実は物凄い根に持ってるって分かったから!離してください!私が悪かった!悪うございました!離して!お願い!』


3分程、訴えてから、ようやく河原君の私刑から逃れられた。


ラスト30秒は、意識がなかったけど、無事生還を果たした。


「…あっそ、悪かったって認めるの。なら、どうやってオトシマエつけてくれるのかな~?超~たのしみ~。」

『え…っと、なるべく、私でも出来るものでお願いします。』




「…たとえば?」


『…人を傷つけない、人を困らせない、お金とか、使わないものなら…でも、いや、あんまり、重篤な状態になるものは、ちょっと…、出来れば、痛いのも、辛いのも、苦しいのも、ダメかなぁ…って、』


「使えねー!」

河原君が大声で叫んだ。
周りの通行人の人が、一斉にこちらを振り返り、自転車に乗った警察官も怪訝そうにこちらを見ていた。


「お前、なに?調子乗ってんの?そんな条件でこれからの人生(俺の私刑生活)についていけると思ってんの?甘ったれんなよ。ばーか。」


『…ぐっ、なんか…河原君のくせに、まともな事言ってる気がする…!』


すると、河原君は、いきなり真剣な表情をして、私の方に顔を寄せて、こう言った。


「…なら、俺のパシりになるってのはどうだ?ニノマイちゃん。」


『…え?パシり?えっと、お金とかは無理なんだけど…』


「金は俺が払うから、昼飯、菓子、ジュースとかを俺が必要な時に買ってくる。…それと、俺の左腕の代わりに色々働け。良いだろ?」


河原君が私の目をまっすぐ見る。
有無を言わせないその眼光に、首を横には振れなかった。



「…なら、決まりだな。まずは、俺のカバン持て。良いな?ニノマイちゃん。」



『……………………はい。』


河原君のカバンを持って、学校の敷地内に入る。目の前には、なんだか楽しそうな河原君。



私の非日常が始まった。



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