私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
宗家の落ちこぼれ?
それは、一体どういう事なのだろう。
「…お、鳳先生。そういう事は、生徒に言っては、」
「すみません。言葉が過ぎました。」
慌てて、鳳先生と河原君の中に入る佐藤先生に、顔色一つ変えずに、謝罪する鳳先生。
だが、河原君の怒りはおさまらない。
「…スゲェ言い様だよなァ。鳳くんよォ。てめーも、人の事言えた義理じゃねーだろうが。他の奴等、全員の意見そっちのけて、低脳なせんせーになった。ろくでなしだからな。」
河原君が、再度挑発する。
鳳先生は、その挑発を冷たく、動かないその相貌で、河原君を一瞥して、私の方に視線を合わせ、こう言った。
「…ニノマイ、昼休みに必ず生徒指導室に来るように。」
鳳先生は、それだけ私に伝えた後、その場をあとにした。
怒りのおさまらない河原君をおいて。
「…河原、あんまり気にすんなよ。鳳先生も悪気があって言った訳じゃ…」
河原君は、佐藤先生の胸元を掴み、壁に押し当てた。身体が、壁に当たる鈍い音が、学校の生徒玄関に響いた。
「…うるっせぇんだよ。黙ってろ。」
河原君は、佐藤先生を暫く睨み付けていると、チッと舌打ちをして、佐藤先生を乱暴に離した。
そして、そのまま無言で、教室に歩いていく河原君。
『…大丈夫ですか?佐藤先生。』
私は佐藤先生を起こして、大事ないか確認する。佐藤先生が、押し当てられた壁は少しへこんでいた。
なんて、怪力だ。河原君。
「…あー、なんとか、な。それにしても、河原って間近で見るとすげぇ怖ぇのな。俺の担当の生徒の中でダントツだわ。アイツ。」
佐藤先生は、苦笑いを浮かべながらも、自分の力で立ち上がり、私の肩に手を置いた。
「…悪いけど、河原頼むわ。俺もなんとか話しかけてみるけど、…まぁ、先生よりもニノマイの方が心開いてると思うから。今日だって、鞄預けてるんだろ。」
『…いや、パシりにされているだけですが?』
「…パシり?…えっ?ニノマイ、お前…河原の舎弟とかになったの?えっ?違う?…まさか、とは思うけど、まぁ、…なんかあったら、俺に相談しろな。…河原相手だと、ちょっと…なんとかするから。」
佐藤先生は立ち上がり、河原君に乱された、胸元のシャツを直すと、あっ。となにかを思い出したかのように、私にこう言った。
「…そういえば、鳳先生からニノマイに宿題出されてたと思うんだけど、終わったか?終わったなら、俺が出しといてやるから、今出せるなら出してくれるとありがたいんだけど。」
嫌な汗が、頬を伝った。