私の弟がヤンデレ過ぎて困る。


私は、どうしたら良いのだろう?



近づくショウの顔。

ショウの淀んだ瞳。

熱いショウの体温。


私への、ショウの想いが痛い程伝わってくる。


でも、だからといって、これ以上は。



『…ごめん、ショウ。ちょっと、近い。』

ショウの胸を軽く押して、距離をとる。


それが気に入らなかったのか、ショウは胸を押していた私の両手首を掴んだ。


そして、締め上げる。

ぎりぎりと、骨が軋むような力で。

『…ッ、いたい、痛い!痛いって、ショウ。離し、て。』


「まだ…離してあげない。だって、まだ綺麗に跡がつかないでしょ?」


数十秒経って、ようやく解放され、両手首を見ると、手形の痣があった。

「…虫よけ。おねぇちゃんが、悪い虫に咬まれない為の虫よけだから、包帯とかで隠しちゃダメだよ?毎回、つけてあげたいけど、おねぇちゃんが痛いと思う事は、あんまりしたくないんだよね。


だから、次は…おねぇちゃんの指に良く似合う指輪を買ってくるからね。」


『…マジで?』

「うん。俺はいつだって、大真面目だよ。今日だって、おねぇちゃんに朝からいっぱいメール送ったし。それくらい、心配したんだからね。おねぇちゃんの事。」



弟の言葉に、思わず携帯の新着メールを見る。



【*500件 メールがとどぃたょ*】


嘘だろ、おい。


いや、あれだ。
きっと、私に用事があった人が、その時間帯に一気に送ってきたんだ。
それか、広告とか宣伝とか。

きっと、そうだ。


と、考えても、メール欄に浮かぶのは、ショウの名前。




『…ショウ。これ、ストーカー扱いされても仕方ないメールの数だよ。』


「うん。知ってる。」

知ってるじゃねーよ!
マナーモードにしてた私も悪いけど、1日に500は無いだろ!

暇か!

「…おねぇちゃんにメールしながら、お弁当作ったんだ。おねぇちゃん、忘れてたでしょ?はい、お弁当。」


渡されたのは、いつものお弁当。

その中身を見てみると、私の嫌いな物で埋め尽くされていた。


「お弁当で、今の俺の心境を表現してみた。」

『凄いデモ。嫁専用のスキル発動か!』


「…違うよ。俺が夫で、おねぇちゃんが俺の嫁だよ?」

『少なくとも、日本ではムリ!』

ショウと平行線の言い合いをしていると、ふと、ショウの目線に私の持っていた炭酸飲料が目に入った。

「…おねぇちゃん、それあの金メッキに買って来いとか、言われたモノじゃないよね?」

ショウのあざとい笑顔で、核心をつかれ、何も言えずにいると。

「…ふーん。そうなんだ。あ、おねぇちゃん見て、あそこにUFO。」

『マジか!』

振り向けば、そこにはいかにも昇天しそうなよぼよぼのおじいさんがバドミントンをしていた。

『若いな!でも、違う!ショウ、全然違ってたけど、』

「うん。ごめん。俺の見間違いみたい。



凄い見間違いだな。と思っていると、ショウの手元にある【極悪炭酸はじめ君】が目に入った。


が、それと同時に、HR開始のチャイムが鳴ったので急いで鍵を開けて、その場を後にする。

「おねぇちゃん。お弁当。」

『…あ、うん。ありが、とう。』

嫌いな物ばっかりのお弁当を素直に喜べない私を許してください。神様。

「…あと、朝。おにぎり作ってくれてありがとう。おねぇちゃんの手作りの料理が食べられて凄く、嬉しかった。」

照れくさそうに、笑うショウ。
だが、後の一言が私の脳裏に響いた。


「……あれが、なかったら、今頃俺…何してるか分からなかったから…。」

一瞬意識が暗転しそうになった。





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