私の弟がヤンデレ過ぎて困る。
次に聞こえてきたのは、黄色くて、甲高い女子の悲鳴。
まるで、お気に入りのアイドルを応援しているときのあの声のようだ。
だが、それも止み、次の瞬間弟の周りに女子の輪が広がった。
「ショウくん~!お姉ちゃんの為に、ここまでくるなんて、偉いね!」
「本当、私の弟もショウくんみたいだったら、可愛いのになぁ~。」
「ショウくんって、彼女とかいるの?」
「ショウくん、SNSとかlineとかやってる?」
群がる女子。男子は遠巻きで、またかよと呆れ顔で観察している。
ニノマイ~。お前んとこの弟がメシ持ってきたってよ~。と冷やかす男子もいた。
あぁ、分かっているとも。
私は、弟の所に行って、たまごサンドイッチを貰おうと席を立とうとした時だった。
弟が、先程私を冷やかした男子の所に向かっていった。
そして、こう言った。
「…あんまり、俺のおねぇちゃんを苛めないでよね。センパイ?」
微笑みながらも、眼が笑ってない。
そんな表情で、男子に言うと、当の本人はまさかこんなことになるとは思っていなかったという顔で、萎縮しきっていた。
心なしか、怯えているように思う。
かわいそうに、南無阿弥陀仏。
というか、クラスの女子の会話総スカンしたな、うちの弟。
冷やかす係の男子に立つ背がないだろうと思い、弟に声をかけた。
『ショウ。』
すると、弟は振り向き、私を見て顔を綻ばせて、まるで保育所で迎えに来た母親に走り寄るかのように、早足で私の所にやって来た。
「おねぇちゃん。はい、これ。たまごサンドイッチと野菜ジュース。栄養バランスはきっちり採らないとね。」
机にのせられた、大好きなたまごサンドイッチと大嫌いな野菜ジュース。
なんて、組み合わせだ。
いくら栄養バランスが大事とはいえ、これはちょっと、ない。
だって、あの野菜ジュース。習字の墨みたいな味がするんだもの。
「ちゃんと、食べてね。おねぇちゃん。」
うわ、マジでか。
弟は反論は許さない。といった態度で、私の席から離れていった。
代わりに、るいちゃんの所に行って、いつも通りの笑顔でこう言った。
「おねぇちゃんにお弁当分けてくれて、ありがとう。おねぇちゃんをよろしくね。加原さん。」
じゃあ、俺はクラスに戻るから。と言って、弟は教室から出ていった。
弟の周りにいた女子は、私の方を向いて、あんな弟がいて羨ましいという視線を送っていた。
男子は、おまえも大変だなという視線を送っていた。
「センナちゃん、そのジュース飲むの?」
るいちゃんが心配そうに、私を見た。
私が、このジュースを大嫌いなのを知っているからだ。
応、飲むとも。出されたものは、残さず食べる派なんです。私。
私は、野菜ジュースの後ろについているストローを外し、飲み口に挿した。
中身を飲んでみる。
うげ、やっぱり墨の味がする。
野菜ジュースを墨ジュースに名称を変更した方が良いんじゃないかと思って嫌々飲んだ。
るいちゃんが心配そうに、私を見ているのが分かった。
大丈夫だよ。るいちゃん。
もうちょいで無くなるから。