堕ちるのに一秒もかからない
最後の曲が終わり、メンバーも舞台から姿を消す。
なのに、熱気が収まらない。
『あー、楽しかったねー!』
横にいたはずの綾花が前からやってくる。
なんて言っていいのか解らず肩にかけたタオルで汗を拭く。
『ほんと、おにぃなんでステージの上だと性格変わんの?』
『あー、でも、レオさん素敵だったなー。なんかますます惚れちゃうね…。って、あおい?』
『えっ!?あっ!うん!惚れちゃうね!』
まったく綾花の振りを聞いていなかった。
『え!?あおいレオさん好きになっちゃったの!?』
『ええええ!?なんで!?あ、言ったわごめんごめん。聞いてなかったの。』
放心状態。
ほんとに、なんて言っていいのかわからなかったんだもん。
もう誰もいないステージを見つめる。
さっきまで、あそこには素敵な人がいたの。
声が縛りつけるの。魔法みたい。
『魔法…魔法使いみたいだったね』
言って後悔した。
この歳になってまで何を言ってるんだって。
でも綾花はそんな私を馬鹿になんてしなかった。
ほんとだね。魔法使いだ。
そう言ってそっと目線を落とした。
『楽しかった。連れてきてくれてありがとう綾花』
『ううん。こっちこそ。』
『帰ろっか』
そう言って二人でライブハウスを出た。
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ガシャンー
近くの公園の自販機でジュースを買う。
あれだけ叫べば喉も渇く。
プルタブに手をかける。
どうしようーーーー
まだ熱が止まない。
瞬きするだびに、目を閉じる度に思いだす強い照明と音楽の塊。
『ねぇ、あおい。私さ、レオさんの事好きなんだ』
知ってる。
『でもね、まだホントに好きか分からないの。』
なんで、泣きそうなの?
『でもね、すっごくかっこよかったの。』
そうだね。
空き缶を持つ綾花に手を伸ばす。
『レオさんのこと好きなのは知ってる。綾花が泣きそうなのも知ってる、かっこいいね。よかったね。』
うんうんと頷く。
忘れよう?
今もまだ忘れられないのは知ってる。
頑張った人に頑張れなんて言えない。
『あおい…ありがと。』
『うん!』
ニカッと笑う綾花は何かを決めたように空き缶を捨てる。