ド天然!? 魔女っ子の秘密【2】
自分は柏木家の人間ではないのだと言う。



「俺が家を出たあの日、消えたんだ。

お前の知っている"柏木晴人"は、もう死んだんだよ」



だから恨むなとも、恨んでくれとも、怒るなとも、怒ってくれとも、何も言わなかった。

俺の気持ちを受け止めた上で、ただ事実を淡々と語る。




「…んで、んなことを今言うんだよ」



いつだってそうだった。

兄は俺に怒ったことはない。

喧嘩をしても泣き喚いて感情的になっているのは俺だけで、兄はいつも冷静に俺に諭していた。

自分の気持ちなんて言わずに、論理的に事実を語った。



「だから俺は誰より知っている。

大切な人の大事な時に傍にいられない悲しさと悔しさを。

どれだけ辛いか、よく分かってる。

そんな気持ちを、お前にだけはしてほしくないんだよ」


兄は口の端をニイっと上げると意味ありげに微かに笑う。


「何を、言って…」


「"サファイア"の新しい当主の手腕のすばらしさは王城にいても聞こえてくる。

心の底から自慢したくなる誇らしい弟だが、自分のいちばん大切な人を大切にできないのは、血筋なのかな」


見透かしたような言葉にその意味を聞こうとしたけど、意外にも兄はその続きを語った。


「由良さんのこと、大切なんだろう?」


いくら年上の兄だからと言って、どうしてここまで分かってしまうのだろう。

何か心を読める魔法でも使っているのではないかと思ってしまうほどだ。
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