距離
会計を済まし外に出る。

曇っているのに湿度のせいか暑い。この時期は化粧直しの頻度も増えるのだ。


「紗枝!」
そう呼びながら私の腕を掴む男を見る。
誰だったかしら?暑いのに走ったりしちゃって、変な人。

怪訝そうな顔をしている私に気付き、男は腕を離し申し訳なさそうに下を向いた。

「ごめんなさい、あの、知り合いに似てまして…」
あたふたと、視線を定めないまま喋りだす男につい微笑んでしまう。

『そう。私もね、紗枝って言うの。偶然もあるものなのね』

男は顔をくしゃくしゃとして笑った。
懐かしい、あたたかい笑顔だと素直に感じた。



お昼休みも終わりそうなのでお互い会社に戻った。…名刺を交換して。
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