溺惑バレンタイン(『恋愛遺伝子欠乏症 特効薬は御曹司!?』番外編)
溺惑御曹司
 今日は航と過ごすバレンタインデー。待ち合わせ場所はホテルの前だったが、亜莉沙は寒いのでエントランスがよく見えるラウンジで彼を待っていた。紅茶を飲み終え、隣のソファに置いていた紙袋を取り上げて、中身を確かめる。超がつくほど甘党な彼のために特別にお取り寄せした、スペイン王室御用達のチョコレートだ。

(航さん、喜んでくれるかな)

 チョコレートを受け取ったときの航は、彼の方が溶けちゃうんじゃないかと心配になるくらい、甘い表情するだろう。それを想像して、亜莉沙は思わずふふっと笑ってしまい、あわてて口元を引き締めた。周りには、同じように恋人と待ち合わせているのか、同年代や少し年上の男性と女性が数人座っている。

(航さん、遅いな……)

 ブレスウォッチを見ると、約束の六時半を十分過ぎている。彼がこのホテルのフレンチレストランを予約してくれたのだけど、予約時間は六時半だと言っていた。そろそろレストランに行った方がいい気がするけれど……。

 亜莉沙がホテルのエントランスの方を見たとき、航が急ぎ足で歩道を歩いてくるのが見えた。片手に大きな紙袋を提げている。ホテルの前で会おうと言っていたから、亜莉沙を探すかもしれない。
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