溺惑バレンタイン(『恋愛遺伝子欠乏症 特効薬は御曹司!?』番外編)
「悪い、待たせたよな」
「航さんにしては珍しいね」
「そう……かな」
「用事でもあったの?」

 亜莉沙に訊かれて航は目を泳がせた。

「いや。うん、まあ。遅れてごめん。亜莉沙はどこにいたんだ?」
「ラウンジ」
「そっか、ホテルの前にいなかったから、てっきり先にレストランに行ったんだと思ってたよ」

 亜莉沙の姿を探すことなく一直線にロビーに向かっていたような気がするけれど、と思いながらも、それ以上追求することなく、亜莉沙は航と一緒にメニューを見る。

「このバレンタイン・ディナーコースが良さそうだね。どう?」

 航が指で示したのは本日限定のディナーコース。〝スモークサーモンの菜園サラダ仕立て・アボカドのピューレ添え〟や〝国産牛フィレ肉のポワレ・蒸し野菜のトリュフソース〟などが並んでいる。

「うん、おいしそう」
「ロゼワインも頼もうか」

 そうして航が注文を済ませたが、彼はどこか落ち着かなさそうに店内を見回したり腕時計を見たりしている。

「今日は土曜日だけど……会社に用でもあった?」

 亜莉沙が訊くと、航はハッとしたように彼女の方を見た。
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