最後の恋愛Ⅱ

「森さん？」

いきなり声をかけられて、ハッとして顔を上げる。

そこにいたのは、隣の部署で所長補佐をしている柳生さん。

ふいにそれ以外の情報も頭に浮かぶ。

確か大麦と同期・・・

は、いやいや！

なぜ何もかもをあいつに結び付けようとしているんだ私

「何、コピー機の前で百面相してるの？」

百面相・・・

ぎゅっと目を瞑り、頬の筋肉に思わず手のひらを添わした。

「あ、えっと・・・」

えっと―

なんて言う？

この会社は社内恋愛禁止じゃない

だから、別に大麦と交際することになりましたと言ったって問題になるわけじゃない

けど・・・

自分とこの所長と・・・って

いうのは・・・

しかも！

そうだよ、その当の本人は急な出張とか言っちゃっていないし！

昨日の今日でいないし！

出張のことだって、知らせてきたのは、メールひとつだけだったし・・・！

「お～い、森さ～ん？」

再び、ハッとして柳生さんに視線を戻す。

柳生は分かった、としたり顔で微笑んで言った。

「今夜、ちょっと付き合いなさい。」

私は、か細くはいと答えて頷き返した。