みかづきさんと僕




どうして今まで、彼女のことを見なかったのだろう。



だって。だって、こんなにも…。


『……、?』



美しい人なのに。



目が合って、困ったように微笑む彼女に、僕は息をするのも忘れてしまう。





『…き、…みつあき。』

「っ……、え?」


驚いた。気付けば目の前には深町の顔。思わず後ろに仰け反って僕は壁に頭を打ち付ける。


「いっ、た〜…。」

『ほら、自己紹介みつあきだよ。』


頭を押さえて悶える僕に不本意だけど笑いが起こる。くそ、かっこ悪い…。こんな姿を彼女に見られるなんて。そう思って涙で視界が歪む中顔を上げた。


けど。


「(え〜…。)」


僕の席から1番遠い人。…そう、榊さんは涼しげな顔つきでお酒を一口飲んだだけで僕のことなんか見ていなくて。


そのことが、僕は存外ショックで言葉の出だしを失いそうになる。


「…っ、えっと!あの…!」


いつもより少し大きめな声を出したけど、彼女の瞳が僕に向くことはなかった。



横で深町が不思議そうな顔をするのを視界に入れながら、僕は思いのほか低くなった声で自己紹介を簡潔に済ました。



その間も彼女とは目が合うことはなくて。


彼女の瞳に僕が映ったのはきっと、僕が心を奪われたあの時、彼女を美しい、と感じたあの瞬間だけだろう。



彼女の凛とした瞳を思い出して、心臓がぎゅっと苦しくなった。



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