みかづきさんと僕
『じゃあな、みつあき。』
「……ほどほどにね、露季。」
『お前も、人のことより早く榊さんのところ行ってやれよ。』
露季の一言に素直に驚く。
「……なんでそれを?」
『あんな嫉妬心剥き出しで気付かないわけないだろ。』
飽きれたように笑う露季に苦笑いを返す。
「ごめん。」
『いいから早く戻れよ。』
「うん。」
最後に2人の手元を何気なしに見ると、露季の手は手首を離れて、代わりに彼女の手のひらを握っていた。
僕の視線に気付いた露季は握る力を少し強め、そのまま僕に背を向けて。
『また、明日。』
と。男の僕でもどきり、とする程の妖艶な笑みを残して夜の街へと姿を消した。
2人が消えた街並みは、相変わらず騒がしくて、スッと僕の心を冷やしていく。
「…戻ろう。」
吐いた息が白く浮かび上がった。
店に歩みを進めながら、今頃なないろは露季とゆあさんが抜けたことに文句を言っている頃合いかな、と予想してみる。
(彼女は、どうしているだろう。)
ふっ、と。店を出る前に見た彼女の控え目な笑みが頭を過る。
…やっぱり、初めてだ。
ガラッ
『あっ…。』
「え?」
こんな気持ちになったのは。