みかづきさんと僕
『…私、あなたの名前も覚えてない。』
「意外とハッキリ言うんですね。」
榊さんの言葉に思わず苦笑い。…でも。
「これから知って下さい。僕のこと。」
それで、と付け加えた僕は、ぎこちなくだけど細くて綺麗で少し冷たい彼女の手をそっと握る。
「あなたのことも、もっと沢山、知りたいです。」
ぎゅっと握りしめた手から、彼女の冷たい指先に僕の熱が移ったように、じんわりと伝わる温かさが心地よかった。
「…————みかづきさん。」
初めて呼んだ彼女の名前は、酷く僕の心の中にストンと落ちて。
「好きです、一目見た瞬間から。」
彼女の瞳に僕が映る。
僕の瞳に彼女が映る。
『…名前、教えて下さい。』
ぎゅっと。握り返してくれるぬくもりに笑みが溢れた。
「みつあき、です。」
『みつあき、君。』
「呼び捨てでいいですよ。」
きっと今、世界には僕達だけだ。
『…みつあき。』
「はい。」
『これから、どうぞよろしくね。』
「…はい、みかづきさん。」
力いっぱい抱き締めれば、苦しい、とクスクス笑いながら背中に両手を回してくれるこの人が。
『私たち、今日初めて会ったのにね。』
「変ですか?」
『変だよ。』
「…でも、こんなこと言ったらまた笑われるかもしれないけど。」
「僕とみかづきさんが出会ったのは、
—————…きっと、運命ですよ。」
今日から僕の大切なカノジョです。
ふたつめ、【恋に落ちるまで】