みかづきさんと僕
前に一度、深夜近くに帰ってきたのに持ち帰った仕事をしようとするみかづきさんを強制的に休ませるべく、嫌がる彼女を寝室に連行しようとした。
が、しかし。
本気でキレたみかづきさんは僕の胸倉を掴んで衝撃の一言。
『仕事させてくれないなら、別れる。』
今思い出しても恐ろしい。珈琲を淹れる手が僅かに震えた。
別れ話に発展するとは思ってもみなかったあの頃の僕は、みかづきさんの一言でそっと彼女を解放して、ゴメンナサイと土下座した。
そんな体験をしてから僕は彼女の仕事云々には口を出せなくなった。
だからこうして遠回しに休憩して下さいの意を込めて珈琲を淹れたり、みかづきさんの好きなマカロンを目の前に置いてみたりと色々試みてはいるが…。
「みかづきさん、珈琲。」
『うん、ありがとう。』
「みかづきさん、マカロン。」
『置いておいて。』
成功したことは一度もない。
どうせ今回も休憩してくれることはないだろう。分かっている、分かってはいるけど心配なのだ。
僕はソファに座りながら小さく一言。
「休憩、して下さいね。」
『………うん。』
返事が返ってきたことに頬が緩んだ。