みかづきさんと僕




『ん……。』


鼻腔をくすぐる微かな匂いにつられて目を開けた。



……、………ん?目を、開けた……?



『!!!!』


バッと勢い良くソファから飛び起きる。その瞬間、低血圧よろしくと言わんばかりにサーっと血の気が引くのがわかった。


(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!)


壁にかけられているみかづきさんのセンスで選ばれた少し変な形の(言うと怒られるけど)時計の針は既に夕刻を指していた。


よ、4時間も寝ていた…のか?


僕は寝起きで動きが鈍い頭を必死に回して現状を整理する。


まず、珈琲を飲んだ後また手持ち無沙汰になった僕はテレビのリモコンを手に取った。が、仕事をしているみかづきさんがいる為テレビを付けることは憚れた。仕方なしにローテーブルの下から引っ張り出した雑誌に目を通していて…。


嗚呼、ここだ。確かそのまま寝落ちしてしまったんだ。


瞼が重く感じて、自然と身体は睡眠の海に飛び込んでいくその刹那。


『(珈琲、結局飲んでないのか。)』


暗くなる視界が最後に見たのは、1度も口を付けられることなく冷めてしまった珈琲だった。


折角みかづきさんの為に美味しい珈琲を淹れたのに、と少し寂しい気持ちになったことは憶えている。




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