不自由恋愛シンドローム
慧が地下鉄の駅に向かって歩いていると、見慣れた後ろ姿。
黒板の前に立つ、凛とした背中と長い髪の毛。
「あの・・・・でも、すみません本当に今日はちょっと・・・」
「いやいや、話違うでしょ?さっきまで協力してくれてたじゃない」
「でもあの、事務所に行くなんて・・・・」
宗教か、マルチか・・・・
「事務所じゃないよ、セミナーだって」
とにかく胡散臭い30代前半の男にカラまれている。
「せんせ?」
放っておけずに声をかけた。
「・・・・白河くん・・・?」
慧はその男と咲の間に入るとまくし立てた。
慧よりも10センチ程は目線が低い。
「すみません、誰ですか?何してるんですか?
この人これから行くトコあんでもういいすか?
てか、警察呼んでいいすか?」
「なんだ、公務員て、あんた高校教師だったの」
勧誘男は咲が書いたのであろうアンケート用紙を見てそう言った。
「お前に関係ないだろ」
慧はそう言うと、咲が書いたアンケート用紙を
男から強引にひったくって咲の手を握る。
「せんせ、ちょっと走れる?」
「え?」
言うと、慧はそのまま咲の手を引いて走り出した。
「あ、ガキが!」
後ろで男の声が聞こえたけど、振り返らずに路地を何度か曲がって走った。