不自由恋愛シンドローム
「待ってってば!けい!」
人の少ない渡り廊下で姫華は慧の腕を掴むと
進行方向に回りこみ、早足で歩いていた慧を止める。
「先生がいたから?!だからしてくんなかったの?!」
「違う」
「違わないよ!そうなんでしょう?!」
「訳分かんない事言うなよ!だいたいなんで・・・・」
言いかけた慧の目の前に姫華がスマホの画面を突きつける。
「なんで深見かって?!」
そこには、カフェに入ろうとしている咲と慧の写真があった。
「どうして・・・・・」
「あの日、慧ひとりで買い物してそのまま家帰ったって言ってたよね?」
「これ、どっから・・・・・」
「どこからなんて関係ないよ!」
慧の目をまっすぐに見て姫華が言う。
「先生と会ったなんて、一言も言ってなかったじゃない・・・」
「たまたま・・・・偶然で・・・」
「じゃあどうして隠すの?・・・・隠さなきゃいけないから?」
なぜ姫華に咲と会った事を隠したのか。
それは慧自身が分かっていない事なのだった。
遅かれ早かれ、こうなる事も分かっていたはずなのに。
「慧、深見のこと好きなんじゃないの?」
姫華の身体が小さく震えている。
今にも泣き出しそうな顔で、それでもかろうじて落涙せずにいる。
「もしそうなら・・・深見をこの学校にいさせないから。
絶対辞めさせるから!」
「黙れ!」
姫華がびくりと身体を震わせる。
大きく見開いた瞳からとうとう涙が零れた。
慧はため息を付き、耳の上髪の毛を左手でくしゃりとにぎる。
「どうでもよかったから言わなかった。
家に帰った頃には忘れてるくらい、深見と会った事は
どうでもいい事だったから言わなかった。それだけだ」
低い声。
淡々と喋る。
「深見の事なんてなんとも思って無い。
姫華が嫌なら授業以外では今後一切関わらなくたっていい」
「・・本当に?」
「ああ」
そう言うと慧は姫華を残して歩き出す。
「慧・・・」
その場に立ち尽くす姫華。
渡り廊下を抜けて足早に階段を下りて行ってしまう。
反対側の渡り廊下を曲がったところ。
そこには咲が立っていた。