不自由恋愛シンドローム
重い鉄の扉を開けると屋上だった。
「ごめん、突然」
「ううん・・・」
「こないだの・・・・・・なんで電話したのって質問だけど」
「え?あ・・うん」
唐突な話題。
こないだ、とはこの間の夜のことだろう。
「先生の・・・・・・先生の声聞きたかったから、だから電話した」
見上げる慧の瞳はただ一点、自分の瞳で結ばれている。
「白河くん・・・・・」
「先生と話してる時、なんか楽に息できたから・・・」
なにがあるのか。
この少年は一体何を抱えて・・・
「それが・・・・・それだけ言いたくて」
「私に・・・・・何か出来る事ある?」
「先生として?」
「そうよ」
それ以外に慧に関わって良いわけがないのだ。
けれど、慧は何かに傷ついた様な目をして咲をじっと見ている。
開きかけた口からは言葉が言葉になって出てこない。
混乱した。
ああ、この目は・・・・・・
見た事がある気がした。
「白河くんには・・・舞嶋さんがいるじゃない」
気が付くとそう言っていた。
彼が何かに苦しんでいるとしても・・・
少なくともそうだ。
自分にできる事は、彼女がきっと今支えている場所では絶対にないはずだ。
咲の目にはとても深い絆が、二人の間にある気がしたのだ。
しかし。
姫華の名前を出した時の慧の苦しそうな顔。
視線をモルタルの床に逸らす。
なぜだろうか。
二人の間になにがあるというのだろうか。
胸がざわざわと嫌な音を立てる。
何が・・・一体何が。
視線を上げない慧をじっと見る。
この男の子を・・・・・自分は救えるのだろうか。
「姫華のことは・・・」
搾り出すように出した声が、続かない。
ふっと、考え至る。
『なんで自分の事好きじゃないの?』
『それは・・・・・・・』
『・・・・・・ごめん、いいよ別に言わなくても』
『・・・・・・』
「ごめん・・・・いいから。無理に言わなくて」
そう言った。
それでもいい。
―声が聞きたかったから・・・
―先生と話してる時、なんか楽に息できたから・・
それだけでも、きっといい。