不自由恋愛シンドローム
聞こえてきた声。
それはこの一瞬でシュミレートした事態の中で、
一番最悪なパターンである可能性を、ほぼ100%にするものだった。
『先生良く寝てるよ』
「今、どこにいるんだよ?!」
『さあね・・とりあえず白河くんには一度邪魔されてるからさ。
今回こそ先生を俺のものにできそうだって報告しとこうと思って」
「ふざけるなよ・・・」
『俺は本気だよ・・・・じゃあね、白河くん』
そうして通話は一方的に切られる。
慧はもう一度さっきの写真を見ると、パーカを羽織って家を飛び出した。
地下鉄。
バイクの免許を持たない慧は、日曜のこの時間
都心へ出るにはタクシーよりも地下鉄が早い事を知っている。
それでもこの選択が間違っていなかったか不安だった。
青山一丁目まで10分強、青山一丁目から六本木は一駅。
大丈夫、これが最短の選択肢だ。
六本木で電車を降りると、慧は全速力でダッシュして改札を抜けた。
迷惑そうな顔をされたけれど、今は構っていられない。
慧はやや分かりづらい場所にある
リッツカールトンホテルの入口へ、迷わず入っていった。
送られてきた写真の、咲が寝ていたベッド。
写り込んでいたリネン類とベッドフレームに、
慧は見覚えがあった。
なぜなら何度か来た事があったからで、そのベッドに寝たこともあったのだ。
しかし、それと同時に頭の中に嫌な仮説が立ち、
慧はその仮説に確信を持ち始めていた。
だからきっと、咲はここにいるはずだ、と。