不自由恋愛シンドローム


45階のロビーに到着すると、慧はフロントの前に立つ。

それから、乱れた呼吸を整えるためか、それとも別の目的か分からない


深呼吸をひとつして言った。




「すみません、舞嶋で予約が入ってるはずなんですけど、ルームナンバーを教えてください」


「失礼ですがお名前は・・・」

「白河です」


「大変申し訳ございませんが、白河様というお名前では特にご来客を承ってございませんのでルームナンバーをお教えすることは出来かねますが・・・」



予想はついていた。

うかつに宿泊客のルームナンバーなんか教える訳が無い。





考えろ。

どうしたらいい・・・・


咲は必ずこのホテルにいる。





考えろ。



考えろ・・・・






「・・幸田・・・・幸田さんで人、フロントスタッフでいますよね?!」


「はあ・・おりますが、幸田が何か・・・?」



いた。



何度か姫華とここを利用しているうちに顔見知りになった女性スタッフの名前。
しゃべるのもチェックインも、全て姫華がやっていたので、自分は一度も喋った事がなかったが、スタッフの中で一番年齢が若く、初めて来た時から姫華の顔を良く知っていて、ファンだと話していた気がする。

その時、バックオフィスから探していた顔が出てきた。



「幸田さん!」

「・・白河様?」


優秀だ。

喋ったこともないのに、会話から慧の名前を覚えている。

今まで対応していたスタッフが、少し驚いた顔で幸田と慧を交互に見た。



「替わります」


そういって慧の前に来た。


「本日はいかがなさいましたか?舞嶋様ならお昼前にチェックインされましたが・・」



分かっていても最悪の仮説が真実になった事に、慧はショックを受ける。

しかし、そんな事は顔にも出さない。

ここで疑われれば、終わりだ。



「すいません、待ち合わせなんですけどルームナンバー忘れちゃって・・・さっきから電話してるんですけど、寝ちゃったのか出ないんですよね」



「左様ですか・・・・では、一度こちらで呼び出してみますね。少々お待ち下さい」



受話器を手に取るとかすかにコール音が聞こえる。


2回・・・・4回・・・・・




賭けだった。



「やはりお出になられませんね・・・・・」



何も言わず待つ。



「あの・・・・本当はいけないんですけど・・・・でも舞嶋様も白河様もわたくし良く存じ上げておりますので・・・・・5007号室でございます」


「あ・・・ありがとうございます、助かります!」



慧は逸る足を抑え、早足でロビーを抜けた。
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