不自由恋愛シンドローム
「・・・・せんせ、これなに?」
紙袋の中を覗きながら慧は言う。
「あの・・・マフィンなんだけど、チョコとキャラメルとブルーベリー」
袋の中にはマフィンがみっつ入っていた。
「いや、分かるけど」
「一応、お礼で・・・白河くん甘いもの食べるか分かんなかったんだけど
もし苦手なら誰かにあげて?」
「普通に食うけど・・・てか、これもしかして手作り?」
「そう・・」
「今、食っていい?」
「も、もちろん!どうぞ」
慧はブルーベリーを手に取る。
ラッピングに何も書かれていないので手作りなのだと分かるが
見た目は売っているものと遜色無い。
「いただきます・・・」
マフィンをかじる。
「あ、うまい」
「ほんと?」
「うん、なんだろ?甘くない・・・卵っぽくて、ちょっとサクっとしてる」
「それって、おいしいの?」
「うまいよ。マフィンなんてあんま食べないけど、たぶん今まで食った中で一番うまい」
ひとくち、またひとくちと食べてゆく慧。
コーヒーに合う絶妙な甘さと歯ざわり。
「それなら良かった」
「先生こんなの作ったりすんだね」
「昔から好きで・・・・正確に計量して手順通りにまぜて。そういうのが好きみたい」
「ああ、実験みたいで?」
「そうそう!食材の温度管理とか室温湿度でも出来上がりが微妙に違うから
そういうの全部データに取ったりしてね」
「・・・・まさかビーカーとかで混ぜてないよね、コレ」
「そうだったらどうする?」
そう言って笑うと、歯並びのいい前歯が少しのぞいた。