とあるマネージャー
電話の時から時間が随分たって、久しぶりに会ったときのことです。
部活で嫌なことはなかった?と聞くと、それまでにこにこしていた平野の顔がぐしゃりと崩れました。
サイゼリヤの中でデザートをつまんでる最中で、アイスクリームの上にぼろぼろ涙が落ちました。
「どうしよう、りこ、わたし、ばれちゃったよ」
なにが、と言わず手首を弱い力で握ってきました。握力二十は体にまったく響きませんでした。
「どうしたの?なにがあったか話せる?」
「…うん。話す、話したいです」
ちょっとずつ話してくれました。内容は、アメフト部の河原くんという同期の選手との事でした。
平野がその会話を録音したと言うので、それを最初から最後まで聞きました。
別に盗聴とかじゃないですよ?平野は内緒話を録音してあとで聞き直すくせがあるんです。やばいことを言っていないかの確認らしいです。
会話は、河原くんの惚気話から始まりました。録音時間は十分弱でした。
彼女がかわいい、あいつのためならなんでもする、まともな仕事に就いたら迎えにいく、などむずがゆい内容がたらたら流れて、そして、平野の一言から会話が変わりました。
『人に好かれるって嬉しい?』
ほんの少し興味があるかのような声色でした。ここで私は嫌な予感を確かに感じていました。
『どうしたのいきなり。嬉しいに決まってんじゃん。俺はたーちゃんに好かれてすごく幸せだよ』
河原くんの声です。たーちゃんとは河原くんの彼女のことだそうです。
『ふーん。やっぱそうなのかー』
『なに?平野好かれてんの?誰だよアメフト部か?』
『そんなわけないじゃん!それに、誰に好かれてもないよ!』
『ダウト。アメフト部じゃないって否定してる時点で事実って認めてるじゃん』
『あ』
『話聞いてやるよ。大丈夫、他には言わないからさ』
『んー…』
ここまで鳥肌で毛が総立ちでした。
言わないで、言っちゃだめだよ平野、と祈りながら録音に耳をたてました。
しかしそんなものも虚しく。
『…あのね、幼稚園の時からの幼馴染がいるんだけどね』
平野が話始めて私は目眩がしました。
『すごい趣味も合って、一緒にいて楽しい離れると寂しい、っていう親友でもあったんだ』
『うん。そいつに好かれてんだね。付き合えばいいじゃんそんなにいい奴なら』
『いや、なんていうかね、もう、その、付き合って、る?うん、付き合ってるんだ』
『あ、そうなの。じゃあなに?そいつと別れたいの?』
『いや、そういう訳でもないのかもしれなくて』
『じゃあなんだよ』
『なんか、まず告白されたんだけど、それが小学六年の時でね、エイプリルフールだったんだ。付き合ってくださいって言われて、私エイプリルフールだからと思ってその嘘に乗っかってやろうと思って、いいよ!って言っちゃったんだ。その内本気だったんだってわかってさ』
『は?じゃあ平野はそいつのこと好きじゃないのに付き合ってんの?それは平野最低なんじゃないの?それにエイプリルフールだから嘘っていう確証ないじゃん』
『う、でも、絶対嘘だって思うような状況っていうか、環境?だったんだ。それに隣にいないのが異常なくらい仲が良かったから、付き合っても全然、むしろもっと仲良くなったんだ。それは嬉しかったの』
『それはー…んー、平野も好意抱いてんだよ。そしたら問題ないんじゃない?』
『いや、あのね、そいつ臼田っていうんだけど。修学旅行ぐらいの時だったかな。私新しい友達ができて、すごい嬉しくて、その子といっぱい話してたんだ。そしたら臼田が、「あの子と話すのやめて」って言ってきたの。その次の日その子が腕に包帯巻いてきてたんだ。どうしたのって聞いたらすごい怖がってるみたいに逃げられて、そしたら臼田が「平野に近づいて来たからだよ」って言ってきてね』
『は、ちょっと待って。その臼田がその子のことどうにかしたかもしれないってこと?』
『多分。てゆうか、絶対そう』
『おかしくね?臼田って女に嫉妬したの?』
『あ、ちが!え、えっとね、その仲良くなった子っていうのは男子だよ!』
『なんだ、そしたら平野が悪いよ。彼氏いるのに男子と仲良くしてたら』
『あー、あー…うんそうだね。それでね、その、男子、とはそれきり話せなくなっちゃって、その他にも似たようなことが何回もあって、すごく臼田が怖くなっちゃったんだ。しかも臼田が傷つけた人たちはみんな私に好意を持っていたらしくてね』
『え、すご。平野モテモテだったんだね』
『あー、うん。うん。つまりね!臼田は、私への束縛が異常なんだ。中学の時も親友ができたって言ったらすごい顔で名前教えてって言われた。それがもう怖くて』
『平野が臼田のこと怖くて嫌いなら別れちゃえば?』
『む、無理!』
『なんで?怖いなら早く離れないと辛いの平野だよ?』
『だ、だって、別れようって言ったら絶対何かされちゃう。怖いよ?何されるかわかったもんじゃない』
『それは殴る蹴るとか?だったら思いっきり抵抗しちゃいなよ。相手は男なんだから』
『無理だよ!絶対、抵抗なんてしたら臼田怪我しちゃう!』
『は?女子の全力で怪我する男なんて早々いねえよ。大丈夫だって。それに怪我するだなんて心配してたら一生なんもできないよ?』
『だめだよ、絶対あかん。だって、ほら、私、剣道してたし、柔道もできるし、空手と合気道も勉強中でしょ?ね?相手一般人だから危ないよ』
『じゃあ抵抗じゃなくて押さえ込めばいいんだよ。一人が怖いんだったら俺とか先輩とか連れて行きな。女子がそんな目に遭ってるってなって放っとく人たちじゃないから』
『それもだめ。私以外に人がいたらその人が危ない』
『なんでだよ。たかが普通の男子だろ?なんも怖いことないって』
『ちがう、ちがうんだよ。根本がちがうの』
『なにがちがうんだよ。言ってみろって』
『やだむり、むり。絶対言えない』
『そんなに言えないような奴なのかよ。大丈夫だって言えよ』
『やだよ!こんなこと知られたら私いじめられちゃう!いじめられても仕返せるけどやだよ!怖いよ知られるの』
『言わない。誓う。俺がもしばらしたらたーちゃんと別れる』
『…本当に言わない?ばらさない?私のこと嫌わない?』
『絶対に言わない』
『…実はね、その』
『うん』
『あのね。臼田はね』
『うん』
『女の子なの』
部活で嫌なことはなかった?と聞くと、それまでにこにこしていた平野の顔がぐしゃりと崩れました。
サイゼリヤの中でデザートをつまんでる最中で、アイスクリームの上にぼろぼろ涙が落ちました。
「どうしよう、りこ、わたし、ばれちゃったよ」
なにが、と言わず手首を弱い力で握ってきました。握力二十は体にまったく響きませんでした。
「どうしたの?なにがあったか話せる?」
「…うん。話す、話したいです」
ちょっとずつ話してくれました。内容は、アメフト部の河原くんという同期の選手との事でした。
平野がその会話を録音したと言うので、それを最初から最後まで聞きました。
別に盗聴とかじゃないですよ?平野は内緒話を録音してあとで聞き直すくせがあるんです。やばいことを言っていないかの確認らしいです。
会話は、河原くんの惚気話から始まりました。録音時間は十分弱でした。
彼女がかわいい、あいつのためならなんでもする、まともな仕事に就いたら迎えにいく、などむずがゆい内容がたらたら流れて、そして、平野の一言から会話が変わりました。
『人に好かれるって嬉しい?』
ほんの少し興味があるかのような声色でした。ここで私は嫌な予感を確かに感じていました。
『どうしたのいきなり。嬉しいに決まってんじゃん。俺はたーちゃんに好かれてすごく幸せだよ』
河原くんの声です。たーちゃんとは河原くんの彼女のことだそうです。
『ふーん。やっぱそうなのかー』
『なに?平野好かれてんの?誰だよアメフト部か?』
『そんなわけないじゃん!それに、誰に好かれてもないよ!』
『ダウト。アメフト部じゃないって否定してる時点で事実って認めてるじゃん』
『あ』
『話聞いてやるよ。大丈夫、他には言わないからさ』
『んー…』
ここまで鳥肌で毛が総立ちでした。
言わないで、言っちゃだめだよ平野、と祈りながら録音に耳をたてました。
しかしそんなものも虚しく。
『…あのね、幼稚園の時からの幼馴染がいるんだけどね』
平野が話始めて私は目眩がしました。
『すごい趣味も合って、一緒にいて楽しい離れると寂しい、っていう親友でもあったんだ』
『うん。そいつに好かれてんだね。付き合えばいいじゃんそんなにいい奴なら』
『いや、なんていうかね、もう、その、付き合って、る?うん、付き合ってるんだ』
『あ、そうなの。じゃあなに?そいつと別れたいの?』
『いや、そういう訳でもないのかもしれなくて』
『じゃあなんだよ』
『なんか、まず告白されたんだけど、それが小学六年の時でね、エイプリルフールだったんだ。付き合ってくださいって言われて、私エイプリルフールだからと思ってその嘘に乗っかってやろうと思って、いいよ!って言っちゃったんだ。その内本気だったんだってわかってさ』
『は?じゃあ平野はそいつのこと好きじゃないのに付き合ってんの?それは平野最低なんじゃないの?それにエイプリルフールだから嘘っていう確証ないじゃん』
『う、でも、絶対嘘だって思うような状況っていうか、環境?だったんだ。それに隣にいないのが異常なくらい仲が良かったから、付き合っても全然、むしろもっと仲良くなったんだ。それは嬉しかったの』
『それはー…んー、平野も好意抱いてんだよ。そしたら問題ないんじゃない?』
『いや、あのね、そいつ臼田っていうんだけど。修学旅行ぐらいの時だったかな。私新しい友達ができて、すごい嬉しくて、その子といっぱい話してたんだ。そしたら臼田が、「あの子と話すのやめて」って言ってきたの。その次の日その子が腕に包帯巻いてきてたんだ。どうしたのって聞いたらすごい怖がってるみたいに逃げられて、そしたら臼田が「平野に近づいて来たからだよ」って言ってきてね』
『は、ちょっと待って。その臼田がその子のことどうにかしたかもしれないってこと?』
『多分。てゆうか、絶対そう』
『おかしくね?臼田って女に嫉妬したの?』
『あ、ちが!え、えっとね、その仲良くなった子っていうのは男子だよ!』
『なんだ、そしたら平野が悪いよ。彼氏いるのに男子と仲良くしてたら』
『あー、あー…うんそうだね。それでね、その、男子、とはそれきり話せなくなっちゃって、その他にも似たようなことが何回もあって、すごく臼田が怖くなっちゃったんだ。しかも臼田が傷つけた人たちはみんな私に好意を持っていたらしくてね』
『え、すご。平野モテモテだったんだね』
『あー、うん。うん。つまりね!臼田は、私への束縛が異常なんだ。中学の時も親友ができたって言ったらすごい顔で名前教えてって言われた。それがもう怖くて』
『平野が臼田のこと怖くて嫌いなら別れちゃえば?』
『む、無理!』
『なんで?怖いなら早く離れないと辛いの平野だよ?』
『だ、だって、別れようって言ったら絶対何かされちゃう。怖いよ?何されるかわかったもんじゃない』
『それは殴る蹴るとか?だったら思いっきり抵抗しちゃいなよ。相手は男なんだから』
『無理だよ!絶対、抵抗なんてしたら臼田怪我しちゃう!』
『は?女子の全力で怪我する男なんて早々いねえよ。大丈夫だって。それに怪我するだなんて心配してたら一生なんもできないよ?』
『だめだよ、絶対あかん。だって、ほら、私、剣道してたし、柔道もできるし、空手と合気道も勉強中でしょ?ね?相手一般人だから危ないよ』
『じゃあ抵抗じゃなくて押さえ込めばいいんだよ。一人が怖いんだったら俺とか先輩とか連れて行きな。女子がそんな目に遭ってるってなって放っとく人たちじゃないから』
『それもだめ。私以外に人がいたらその人が危ない』
『なんでだよ。たかが普通の男子だろ?なんも怖いことないって』
『ちがう、ちがうんだよ。根本がちがうの』
『なにがちがうんだよ。言ってみろって』
『やだむり、むり。絶対言えない』
『そんなに言えないような奴なのかよ。大丈夫だって言えよ』
『やだよ!こんなこと知られたら私いじめられちゃう!いじめられても仕返せるけどやだよ!怖いよ知られるの』
『言わない。誓う。俺がもしばらしたらたーちゃんと別れる』
『…本当に言わない?ばらさない?私のこと嫌わない?』
『絶対に言わない』
『…実はね、その』
『うん』
『あのね。臼田はね』
『うん』
『女の子なの』