お見合いに来ないフィアンセ
「僕の知りうる限りでは、5人ほどいたよね? 勝手に見合いをセッティングして、僕に知らせないまま、決行したの」

「駿人、あんな子と付き合うなんてやめなさい。しつこく見合いをさせろと言ってくるような薄汚い家庭の娘なんて、良いはずがない。お母さんがもっと良い子を見つけてあげるから。候補ならいるのよ」

「やっぱり。母さんの仕業だったんだね」

「駿人! 付き合わないわよね?」

「付き合うよ。決めたから」

「ちょっと」

 もっと強く僕の腕をつかみ、引っ張ってくる。

 鬼の形相とはこういう表情を言うんだろうなあ、と頭の片隅で考える。

「いつ倒産してもいいような中小企業の家の子よ? 見合いさせろって、何度も催促してくるような貪欲で強欲で。うちには何も良いことなんてない。そりゃ、あちらはいいわよね、大手企業だもの。安泰だわ」

 美月さんもたしか、そんなことを言ってたな。

 しきりに考え直せって。

 こっちには利点があるけれど、僕にはマイナスにしかならない付き合いになるって。

 マイナスかどうか、なんて付き合ってみなければわからないのに。

「母さんは昔からそういう考え方だよね。人を利用できるか、そうでないかで付き合いを選ぶ。うんざりだよ、そういうの。だから僕は、美月さんとお付き合いするから。以上。言いたいことは言ったから、帰ります」

 僕は母親の腕を振り払うと、実家を後にした。
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