お見合いに来ないフィアンセ
「以上の内容でよろしいですか?」

「ええ。結構です」

「かしこまりました」

「最初に話した通り、その書面を僕の両親に一通ずつ渡してください」

「はい。では今日はこれで失礼します」



 ただのコーヒー一杯に800円も出せ、というあからさまに高級なカフェで、オールバックの40代半ばの男性が黒く鞄に書類を入れると立ち上がった。

 グレーのスーツに、紺色の無地のネクタイ。見るからに弁護士と言わんばかりの雰囲気漂う男性が、ちらりと小山内駿人を見つめた。

「よろしいのですか?」

「なにが?」

「これをご両親にお渡しになって」

「構わないよ。そのために、父の会社の顧問弁護士を呼んだんじゃないか」

「しかし……」

「早く事務所に帰って、書類を完成させてくれないかな?」

「はい。では」と弁護士の男性が、後ろ髪引かれるようにゆっくりと歩き出した。

 弁護士がいなくなると、小山内駿人が「ごめんね」と苦笑した。

「私も弁護士の方の気持ちなんとなくわかる気がします」

「ん?」と小山内駿人が首を傾げた。

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