お見合いに来ないフィアンセ
 私個人から見たら、『会社の利益』という点から何も得られないかもしれない。

 け、れ、ど!!!

 小山内駿人は、誰もが認める文武両道のイケメン男子。
 将来、有望。

 誰もが認めるスゴイ人と、付き合るだけで私は利益どころの話じゃない。


 そういう方向から見ても、小山内駿人にはなんの得になるようなことはない。
 私は特別、美人……ではない。
 頭がいいわけでもない。
 いい高校に通ってるわけでもない。

 スポーツができるわけでもない。

 どれをとっても、まあ普通レベルでおさまってる人間だ。

「んー」と私は唸り声をあげると、「なんか納得いかない」とぼやいた。

「納得いかなくても、僕たちは結婚を前提にお付き合いする恋人同士になったんだよ。よろしくね、美月さん」
 小山内駿人が素晴らしすぎるくらい完璧な笑顔で微笑んだ。

 思わずころっと騙されてしまうくらいの素敵笑顔に、私はおでこをパチンと叩いた。

「『よろしく』じゃないですよ。どうするんです? 弁護士さんに堅苦しい書類なんか書かせて」
「いいことじゃない? 両親に邪魔されない交際になるんだよ」

「結婚を前提っていう意味をわかってます?」
「わかってるよ」

「デートもしたことない私たちが、結婚前提ってあり得ないですよね?」
「なんで? デートならこれから沢山すればいい。僕は陸上の練習があってあまり時間がとれないかもしれないけど、できるだけ美月さんの要望には応えられるように努力するよ」

『そうそう』と言葉を続けて、小山内駿人さんがポケットから鍵を出した。

「なんですか? その鍵は」
「僕のアパートの鍵。美月さんに」

「え?」
「ん?」

 小山内駿人さんが、眉毛をあげて不思議そうな顔をした。

「あ、そっか。鍵だけじゃ、場所がわからいよね。案内するよ」
「……そういうことじゃなくて……」

 天然なのか?
 小山内駿人はただの世間知らずなのか?
 陸上馬鹿で、抜けているのか?

 警戒心はないの?
 
「私、見合い相手の女です」
「知ってるよ」と素敵な笑顔がかえってくる。

「いや……だから! 小山内さんには警戒心はないんですか? こいつ、俺の財産狙ってんな。玉の輿狙ってるんだろ……ていう疑う気持ちはないんですか?」
「ああ、ないね」
「なんでですか? 狙われますよ!」

「美月さんは狙ってないでしょ。 逆に狙われる僕の心配ばっかりしてて、いい人すぎ」
 小山内駿人さんが、クスクスと肩を揺らして笑った。

「いや、だって……。お父様はすごい方だし、ご本人は大学生で文武両道を貫くイケメン男子だし……。一般的に考えれば……ほら、ねえ」
「ありがと。美月さんに褒められて嬉しいよ」

「ほめ……ったわけじゃなくて……」
「とりあえずここを出ようか。居心地悪くて。アパートに案内するよ」

 小山内駿人さんが肩をすぐめると、席をたった。


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