お見合いに来ないフィアンセ
 桃桜学院から徒歩15分くらいのところにあるこじんまりとしたアパートに案内された。

 え? 意外と普通……。
 もっと高層マンションの最上階とか。
 一人暮らしなのに大きな一戸建てに住んでるとか……。

 そういうのを想像してた。

 一般的な大学生が住むような一人暮らしのアパートだ。

「ワンルームぅ?」と私は玄関で思わず、心の声が漏れ出た。

「意外?」
「意外でしょ。超がつくほどのお坊ちゃまが……」
「普通の小さなアパートって?」

 私は『うん』とうなずいた。
 小山内さんが、くっくっくと喉を鳴らして笑う。

「僕が掃除できる広さで充分でしょ」
「え? 掃除するの?」
「するよ。一人暮らしだからね」
「メイドは? 家政婦とか。実家からくるもんじゃないの?」
「やだ。他人が部屋に入るのって、好きじゃない」

 ん? ってことは……私も他人だよね?

 私は小首を傾げて、靴を脱いでいる小山内さんを見上げた。

「鍵……いただいてよかったんですか?」
「ん。いいよ。あげたの僕だよ」
「だって今」
「彼女なら、いつでもOK」

 家にあがった小山内さんがにっこりとほほ笑んだ。

……この人の基準がいまいち、わからない。

『彼女』なのか? 私は?
交際の契約書は弁護士と作ったけれど。

 見合いしただけ。
 お互いのことはよく知らない。

 あ、私は多少なりとも小山内駿人さんを知っている。
 世間で騒がれている大学生だから。
 むしろファンで、雑誌の記事を買いあさってくらい。

 でもこの人は?
 私を知らない。
 ずっとすっぽかしていた3回目の見合いでちらっと合っただけだ。

 大丈夫なのか?
 そんな人間を『彼女』と言うのは?

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